1月9日(日)
放置してあった洗濯後の衣類を畳みながら、大学院卒業後のことをいろいろ考えた。洗濯機も一回まわした。
NHKの言葉おじさん、梅津アナウンサーによると、名古屋では、何かを準備することを「まわしをする」と言うらしい。
お粥を温めて食べてから、明日の実験のまわしをするために大学へ行く。
十日戎の影響で43号線が渋滞していた。
帰ってきてから芦屋のジュンク堂書店に、山崎ナオコーラの『人のセックスを笑うな』を買いに行く。最初なかなか見つけることができず、店員さんに聞こうかと思ったが、僕は、「山崎ナオコーラ」という名前も、「人のセックスを笑うな」という題名も店員さんに聞くことができなかった。店員さんは二人いたが、両方とも若い女性だったから。でも、たとえ店員さんが男性だったとしても、恐らく僕は尋ねることができなかったと思う。自分で頑張って探していたら、ちゃんと見つけることができたので良かった。
本は書店で買うことが多い。
インターネットで本を買うこともあるが、家を留守にしていることが多いので受け取るのが面倒なのである。それに、なによりも僕は、欲しくなった本を買うためにいそいそと本屋に出かけるのが好きなのだ。
本を本屋で探すことが苦手なので、よく店員さんに品物のありかを尋ねる。尋ねた直後に、自信ありげな微笑みを浮かべて本の場所まで連れて行ってくれる店員さんが僕は好きだ。できればコンピューターで検索をかけたりせずに、スムーズに本の場所まで連れて行ってもらいたい。本屋で、頼もしい店員さんの後を追いかけて歩くのはいつも楽しく、そしてちょっとどきどきする。
もう死んでしまった僕の伯父は、ある日、ある本が読みたくなって本屋に行った。でも伯父は、その本の題名も著者名もはっきり憶えていなかったそうだ。
仕方がないので伯父は店員さんに聞いた。「うーん、何て言ったかなーあの本。うんと、えっと『おやじの言い分』」と聞いた。
すると店員さんは、小さくフッと笑った後で「少々お待ちください」といい、すばやく向田邦子の『父の詫び状』を持ってきた。
こういうのはプロっぽくてとても格好いいと思う。
仕事をするときはかくありたいものだ。
1月8日(土)
いつものように朝は研究室へ。
昼からは今年初めての合気道のお稽古へ行った。
今日のお稽古には内古閑さんと浜松の鈴木先生ご一行がいらっしゃった。
今年初めてのお稽古は逆半身片手取りからの技が中心だった。
お稽古の後は内田先生のお宅で鏡開きの会。
おぜんざいがとても美味しかったです。
1月7日(金)
七草粥の日だ。
久しぶりに大学の学生食堂で晩ご飯を食べた。
日替わり定食はお粥じゃなかった。あたりまえか。
1月6日(木)
ちょっと不思議な夢を見た。
夢の中で僕はお風呂に入っていた。場所はどこだかわからないが、それはおそらく家のお風呂だった。バスタブに浸かった僕は何となく閑をもてあまして、頭の先までお湯の中にすっぽりと沈んでみた。湯の中で目を開けると、そこにはたくさんの魚が泳いでいた。小さい魚や大きい魚がいた。珊瑚やゆらゆらと揺れる海草もあった。お魚たちは、水が温かいからだろうか、熱帯魚のような色の鮮やかな魚がほとんどだった。美しい景色だったので、僕は息をこらえながら目の前の様子をしばらく観察していた。すると、右側から一匹の魚が視界に入ってきた。魚はうすいオレンジ色をしていて、茶色の縞模様が入っていた。縞模様は基本的に縦縞なのだが、真っ直ぐに入っているわけではなくて、ところどころで融合して網目のようになっていた。そしてその魚は全身が棘で覆われていた。「ミノカサゴだ!」と僕は思った。「棘に毒があるから触らないように気をつけなくちゃ」と思い、水の中で後ずさりしようとしたが、僕は水の中でうまく移動することができなかった。刺激を与えて攻撃されたりしないようにとその場でじっとしていたら、ミノカサゴは僕の目の前20センチくらいをゆっくりと横切っていった。僕の体の前を完全に通り過ぎたところで、ミノカサゴは突然全身を光らせた。茶色い縞模様が、ざあっと光った。縞模様がまるで血管で、その上を走っていった光りは血管の中を流れる血液のようだった。ミノカサゴは僕のことなど全く気にせずに、ただ光りたいから光ったように見えた。ただ光りたいから光りたいときにだけ勝手に光るミノカサゴはとても美しかった。風呂から上がった僕はそのまま眠り、その翌朝、弟に「きのう、お風呂がたいへんなことになってたよ」と言った。弟はあまり興味を示さなかった。この調子だと、家のお風呂が綺麗な水槽になっていることに誰も気がついていないのかもしれない。もしかしたら最後に風呂に入った人がお風呂の栓を抜いちゃったかもしれないと僕は思った。昨晩のうちに家族のみんなにお風呂の異変をきちんと知らせておかなかったことを後悔した。そして、慌てて風呂場へと向かった。うちの風呂はなぜか洗面台だった。洗面台の中をのぞき込むと、案の定、栓は抜かれていた。そしてその底には、青色と紫色の干からびた熱帯魚が張り付いていた。ぎざぎざした背びれのひとつひとつまで丁寧に干からびて洗面台に張り付いていた。ミノカサゴの姿はそこにはなかった。僕は少しだけ安心した。