9月11日(土)
ボストンに留学中のK先生からメールが来た。
研究で使用するものを送ってほしいというのが主な内容だったのだが、最後に付け足
されていた雑談がちょっと面白かった。
K先生の留学先のボスはけっこう太っ腹な人で、研究室に所属している研究者は、全員
ボスにお金を出してもらって、毎年12月に開かれる学会へ行っていたそうだ。でもそ
れは去年までの話。
毎年コンスタントにいい論文を出しているその研究室は、最近、年を追うごとにどん
どん研究員の数が増えているという。そして、あまりに大所帯になってしまった今年、
とうとうボスは「研究室員みーんな学会無料ご招待」を中止するという決断を下した。
学会出席に伴う学会費&交通宿泊費は、今年から以下の基準を満たした研究者じゃない
と支給してもらえないという。
1.学会で発表する。
2.「えっへん」と人に見せられる実験結果はすでに持っているが、論文発表まで至っ
ておらず、まだ人前に出したくない。
3.自分で研究費をゲットしている。
4.最近ラボに来た。
5.ボスから学会費用を出してもらったことが無い。
以上のどれかに引っかからない人は、学会に行きたければ自分で旅費を出さなければ
ならないそうだ。
ボストンから学会が開かれるサンディエゴまでの交通費と、3−4泊の宿泊費というのは
アメリカ国内での移動とはいえ馬鹿にならない金額になると思われる。
日本では1じゃないと、国内国外を含めて学会には行かせてもらえないということが多
いから、僕がこの基準を目にしたとき、最初は「けっこう思いやりがあるボスだよな
あ」と思った。とくに4と5なんて、非常に気遣いが感じられる基準である。
しかーし、である。メールで読んだだけだから最初は細かいニュアンスがわからなかっ
たのだけれども、よく考えてみるといくら大所帯とはいえ、この基準を満たさない人
というのは、かなり限定される人間じゃないのかと思う。
結局これは、「古株で、しかもろくな研究結果も持っておらず、なおかつ自分でカネ
を取ってくる甲斐性もないやつ」という、ほとんど特定可能な個人に冷や飯を食わせ
ようという魂胆なのではないだろうか。
K先輩は幸いにして、3の基準を満たしているから今年の学会には行くことができたそ
うだ。
確かこのラボのボスはイスラエル人で、研究室員もアメリカ人はほんの数人であり、
他のメンバーは世界中の至る所から集まってきた人たちらしい。
いろんな国から集まってきた人みんなに納得いくような研究室運営と言うことになる
と、やっぱり実力主義・成果主義ということになってしまうのだろうか。
アメリカはよく競争社会だといわれるけれど、それにはそれなりの理由があるのだろ
う。おそらく、そこで過ごしてみて初めてリアルに感じる理由があるのだと思う。留
学したことないからわからないけど。
K先輩のラボの新しい学会費支援基準が、特定の人間を排除するために作られたもので
あるのかどうかは、また改めて報告させていただきたい(性格悪いっすね)。
それにしても、「ボス」という言葉にはいつも石原裕次郎を連想させられてしまいま
す。人によっては缶コーヒーだったりするのかもしれないが、僕はやっぱり七曲署だ
な。