夏になれば思い出す線香花火と大爆発
近年雑誌が姿を消しています。特に子供向けは漫画週刊誌さえ、あまり見かけ
なくなりました。そんな昨今、夏になると思い出す少年少女雑誌に出ていたクイ
ズがあります。
空気が全部水素でできている星で、線香花火にマッチで火をつけたらどうなり
ますか。
ほっぺたの赤い単純な小学生は、天真爛漫に答えます「大爆発」。理科が好き
なのに点数が伸びずに性格がねじ曲がりかけている中学生の姉貴は「バカね。酸
素がないから何もおこらないでしょ」。二人の兄貴分でねじ曲がりが完成した数
学科の大学生は「二人とも正解だよ。酸素のないところでは『火をつけたら』と
いう仮定が間違っているんだから、全ての命題は真になるからね」......実は三人
とも間違っています。
正解は「ややしょぼいけど線香花火はできる」です。マッチや花火には自前の
酸素が含まれていて、周囲に酸素が無くても燃えますが、大量にある周囲の水素
を燃焼させるほどの量はないからです。だから、町中にあるガスタンクやガスホ
ルダーも、簡単には爆発しないのです。
時は流れて、大学生時代。隣の講座の教授が、新しい実験設備のデモをするの
を見学したことがあります。隕石の衝突を実験室で再現する装置で、教授自ら免
許をとり消防署の許可も受けて、使用する爆薬を管理していました。。
大音響ともに、岩石や金属球が一瞬で溶けたり粉砕されたりしている様子を見
たあと、余った黒色火薬を薬包紙にとって、教授はカチりとZippoを鳴らし......訂
正......100円ライターをグリっと回した瞬間、それまでお腹いっぱい爆発を堪能し
ていた見学者たちは、いっせいに腰を引きました。けれども、指先の薬包紙はし
ばらく燃えたあと、パチパチと見覚えのある火花を飛ばしてから、小さな灰にな
ってビーカーの底に落ちていきました。
「たいしたことないですね」......教授の公開実験に開口一番これはないでしょ
う。参加者一同の白い目が私に向くのがわかりました。今思えば恐ろしいことで
すが、教授はこの社会性皆無の青年が、科学者としての適性も著しく欠いている
ことにも、気がついたことでしょう。
研究室にもどり、この凍った雰囲気をとりなそうと助教授が、御自慢のコーヒー
を振る舞っている時、今では日本を代表する研究者になっている後輩が呟きまし
た「線香花火が一番怖かったですね」。
彼は、使い方によっては線香花火の火薬が強烈な爆発力をもつことに、意識が
向いていたのです。一方、ほっぺたは赤くないですが単純だった私は、火薬なん
て怖くないと慢心しただけで、何も学ばなかったのです。
本当は恐ろしい爆弾の話
火薬というものの本質は、小さな空間で大きなエネルギーを出せることです。
これは木炭と比較すると解ります。木炭は炭素の塊ですから、火をつければすぐ
に炎上しそうなものです。けれども酸素と接触している炭素原子は表面だけなの
で、たとえ備長炭でもBBQの間に少しずつしか燃えません。ちなみに炭が恐ろしい
のは粉塵になったときです。この場合、小さな粉粒の周囲には空気中の酸素がた
っぷりありますから、濃度やら湿度の条件次第では引火や発火がおこります。そ
の大規模なものが炭鉱の粉塵爆発です。
一方。古典的な火薬の中に含まれている炭素は、周囲にある酸化剤から酸素を
もらうことができるので、少し加熱してやれば一気に全体が燃え上がります。こ
のとき高温の二酸化炭素が瞬間的に大発生するので、粒の中で圧力が急上昇しま
す。線香花火がパチパチと飛び散るのは、この圧力で火薬の粒が小さな爆発をお
こすからです。
密閉された容器の中で、大量の火薬に同じ現象がおこるとどうなるか。気体の
逃げ場がないので内部の圧力は上がり続け、最後は高温高圧の気体が一瞬で容器
を吹き出します。これが火薬を使った爆弾の原理です。容器が丈夫なほど、中の
圧力が高い状態まで耐えてから爆発するので破壊力が増します。ある意味で単純
は話です。具体的には............
高校時代のことですが、筒井康隆の「俗物図鑑」の中で、「爆弾の作り方は面
白いが、まねするやつが出てくると危ないので、書かない」という内容があり、
「何を良い格好してるねん。本当は知らんのやろ」などと思っていましたが、今
回、いろいろと調べてみて、私も全く同じ結論になりました。殺傷能力のある銃
の作り方までwebに乗っている時代に無意味かも知れませんが、長屋の大家さ
んにまで迷惑が及ぶといけないので、マジで自粛します。
容器の頑丈さが爆発力を決めるという原則は、核兵器でも同じです。原子爆弾
の中で核の臨界反応がおこっても、容器がある程度は耐えてくれないと、核燃料
全体が反応する前に飛び散ってしまうので、威力が著しく落ちます。丈夫な容器
は重くて大きいので、核兵器の小型化はむずかしいのです。映画「オッペンハイ
マー」をご覧になった方は、これから日本向けに「出荷」される2台の「完成品」
の巨大さを思い出して下さい。
オッペンハイマー (映画)、ウィキペディア(Wikipedia)、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AA%E3%83%83%E3%83%9A%E3%83%B3%E3%83%8F%E3%82%A4%E3%83%9E%E3%83%BC_(%E6%98%A0%E7%94%BB
)
プラスチック爆弾と固体燃料ロケット
一方、核を使わない通常爆弾には、「重くて大きな容器」という宿命を破る発
明がいくつかあります。解りやすいのはプラスチック爆弾です。名前だけ聞くと、
ダイソーあたりで3個110円で売っていそうですが、まだ見かけたことはありませ
ん。
真面目に考えれば、「金属探知機をすり抜けるために強化プラスチックで作っ
た爆弾」とも思えますが、これもよくできたウソ。実際は、容器のいらない粘土
状の爆弾です。敵の戦車に付着させ点火したり、建物の隙間に押し込んでおいて
爆破したりが戦場での用途で、映画「プライベート・ライアン」にも出てきた記
憶があります。堅い容器が爆発を押さえ込まないので効率は悪いのですが、高性
能の火薬を使う事でその分を補うという発想の兵器です。
話はそれますが、同じようにウッカリ名前で考えてしまうと、とんでもない誤
解をしかねないのが、「固体燃料ロケット」です。旅館の宴会場で湯豆腐の保温
に使われるブルーのブロック、あれの高性能判を機体に詰め込んで、打ち上げの
時には仲居さんがチャッカマン片手にやってくるロケット......ではありません。
固体燃料とは火薬のことです。記事の最初のクイズにあった理由で、酸素のない
真空中でも使えます。だから、宇宙空間に仲居さんを呼ばなくても二段目のロケ
ットを点火できます。固形燃料ロケットではないのです。
プライベート・ライアン、ウィキペディア(Wikipedia)、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%99%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%BB%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%83%B3
本当に爆轟がおこったのか
プラスチック爆弾と同じ発想ですが、粘土状の火薬の代わりにガスを使うもの
が気化爆弾です。こちらの方は、爆発物の質より量で勝負という設計思想です。
目標の上空に大量の可燃性ガスをまき散らし着火する事で、空間全体を爆発させ
るという爆弾です。
今回のイオンモール熊本の事故で有名になった爆轟(ばくごう=「気体の急速
な熱膨張の速度が音速を超え、衝撃波を伴いながら燃焼する現象」)を発生させ
る兵器なので、威力の割に殺傷力が強く、あたり一面の人と動物を皆殺しにする
ので、非人道的で使い勝手が悪く、近年ではあまり使われていません。
イオンモールの爆発で、生存された方の証言をきいていても、「ガス臭い」と
感じながらも、慌てて逃げようとする人はあまり見かけませんでした。「こんな
に大きな空間が爆破するはずがない」という、それまでの常識で行動していたよ
うです。避難後戻ってきて事故に遭われた方も、そう考えておられたのでしょう。
確かに大きな空間では爆発はおこりにくいのですが、気化爆弾のように大量の
燃料が短時間で供給されれば、大爆発がおこるのです。ただし、今回の爆発が爆
轟というほどの威力があったかどうかは疑問です。あったにしても、最初だけだ
ったのではないでしょうか。ペットショップの犬猫さんたちが生存していたこと
からもそう思われます。ここいらへんの疑問は、近々解明されるはずです。
いずれにせよ問題は、地震から爆発までの90分足らずの間に、どうやって大量
のガスが漏れたかということです。結論を言えば、地震で配管が外れたとしか考
えられないでしょう。次の疑問は、なぜ地震時に自動的にガスを遮断する装置は
作動しなかったのでしょうか。
先入観で震度を決めつけてはいけない
イオンモールは地震時どんな揺れだったのでしょうか。行政上の所在地のであ
る熊本県上益城郡嘉島町には、地震計はありません。周囲を取り囲む、 益城町と
熊本市中央区は震度6強、御船町は震度6弱、熊本市中央区と東区は5強でした。地
震で大きな揺れの地域では必ずおこることですが、場所(地形・地盤)によって
震度が大きく異なっています。阪神淡路大震災のとき、数m横で被害の様子が全
く違うことが、あちこちでありました。
地震情報、tenki.jp、
https://earthquake.tenki.jp/bousai/earthquake/detail/2026/07/28/2026-07-28-16-27-18.html?xlarge_image=1
爆発前の避難時の映像を見た限りでは、イオンモール内で大型家具の転倒や小
物の散乱はあまり見られません。また、場所も緑川の自然堤防沿いで砂地の堆積
物が多く揺れの弱い場所であっても不思議ではありません。
ですから、モールの敷地内での実際の震度は5弱程度だった可能性さえあります。
少なくとも「建物の設計時に想定できないほど強い揺れだった」と決めつけるこ
とは難しいと思います。また、地震時に働く自動遮蔽装置が作動したかどうかに
ついても、センサーのあった場所(たとえば駐車場内のガスタンク横)の震度が
基準以下だった可能性も否定できません。つまり「遮断装置は作動させないけれ
ども配管を壊す地震動」があった可能性です。
NHKの「クローズアップ現代(26/8/2放送)」では、「遮断装置が作動しなかっ
たら、タンクから出ているガスが爆発後も燃え続けるはずだ」という専門家の見
解がありましたが、タンクのガスが全部放出された後に爆発がおこったと考えれ
ば説明がつきます。
むしろ、遮断装置が作動してタンクにガスが残っていたのだったら、なぜ、あ
れだけの高温高圧の爆風を受ける場所にあったタンクが、爆発しなかったのでし
ょう。また、事故後、イオンの関係者がタンクに残ったガスを回収した、という
話も聞きません。だとしたら、あまりにも危険かつ無責任な話ではないでしょう
か。
ヒーローの転落を望む人々
爆発による惨状と、震源付近で見られた断層運動までからんだ震度7の被害をイ
メージ的に混同して、「まあ、巨大な地震だったんだから、何がおこっても想定
外だよね」というような、乱暴な議論はしてほしくありません。また、念のため
言っておきますが、「イオンの手抜き設計がガス爆発の原因だ」などと、根拠も
無く喚くつもりもありません。
製紙工場の煙突でもわかるように、大きな建物に強烈なダメージを与える長周
期振動などについては、わからないことがあまりにも多く、もしガス管がはずれ
たときのメカニズムがわかったとしても、とても事前に想定できるような単純な
話ではなさそうです。また、万一、誰かに落ち度があったとしても、安易に責任
追及をしないことことが大事です。
イオンモール熊本のスタッフは経営陣まで含めて、避難誘導などの対応が素晴
らしかったことは議論の余地はありません。それだけに、私としては、何か設計
上の問題がひとつでも見つかったら、劣化世論が手のひらを返して、「巨大資本
による安全性軽視」みたいな話にならないか心配なのです。
トンデモ記事と本屋大賞
同じような状況だったのが、東日本大震災での福島第一原発のスタッフたちで
す。その献身的な頑張りは、フクシマフィフティなどと国際的にも賞賛されまし
たが、A新聞社の社会部記者たちが、無知と妄想に基づくネガティブキャンペー
を始めました。公表された当時の福島原発の高木所長のメモを誤読して、「所員
が集団脱走しようとしていた」という話を作ってしまったのです。少しでも放射
線に関する常識があるか、論理的に推理する能力がある記者が一人でも携わって
いたら、あり得ない誤報でした。あまりにレベルが低い記事だったので即座に非
難が殺到し、現場のヒーローたちの名誉は守られ、首謀記者が引責辞職という情
けない幕引き......では終わりませんでした。
その元記者は「朝日新聞社社会部」という著書で、全く根拠無しで自分たちの
誤報を正当化をするという離れ業を始めました。普通、こういうのは「負け惜し
み本」とか「ゾンビ本」とか「トンデモ本」とかいわれ、嘲笑されて終わるので
すが、こともあろうにその年の「本屋大賞」のにノミネートされました。
私は宣言しました、「こやつが大賞とったら、もう一生書籍はいっさい買わん。
今後、必要な資料は万引きするか、書店員をカツアゲして入手する」。幸い、大
賞にはなりませんでしたが、その後も、際だって程度の低い本が毎年1・2冊、ノ
ミネートに紛れ込むのが本屋大賞の通例のように思います。
劣化世論で失われる事故の教訓
こういう理不尽な言論爆発がおこるたびに、大事故の関係者は原因究明よりも
保身に走るようになります。事故というものを過失犯罪の一形態としか見ない警
察・検察。他人の失敗を非難するのが大好きな劣化世論。今回の事故についても、
なんだか嫌な予感がします。
沖縄辺野古での修学旅行事故でも政治がらみ選挙がらみで、キーキーブーブー
責任追及じみたことをしている方はいっぱいおられますが、肝心の「なんで船が
沈んだのか。どうすれば防げていたのか」については国民的無関心の段階に入っ
ています。
事故の教訓を社会で共有することと、責任者を徹底的にいたぶるのと、どちら
が犠牲者の慰霊になるのか......なんてセンチメンタルなことを言うつもりはあり
ません。個人的には「死者の霊は存在しないし、もちろん慰める事などできない」
と思っているので、こうした議論はむしろ嫌悪しています。
ただ、人間はいずれ死ぬにしても、理不尽な死の可能性を減らす努力はあらゆ
る場面、あらゆる方法で必要だと思っています。また、大型のショッピングモー
ルにしばしば入店せざるを得ない平均的な日本人として、LPガス事故について
十分な教訓が得られる事を心から希望します。