脊椎反射で反論
自慢じゃありませんが、私は遅筆なのに、新しい話題に次々と飛びつくのが大好きです。けれども、進行中の話は状況が変化したり、いろいろな方がいろいろな視点で記事を書いたりします。そのため、キーボードの前でモタモタしているうちに、内容がどんどん陳腐化して、俗に「原稿が腐る」という状況にしばしばなります。
さすがに事実関係が大きく変化したら自主没にしますが、新しい視点と思っていたものを他の論者に先を越された場合は、気にせず(本当は舌打ちしながら)そのまま出稿します。そして、内容に間違いが見つかっても、人類を滅ぼしたり(出来るもんならやってみな)私自身の犯罪になったりしかねない場合以外は訂正はしません。続報記事を出す場合でも、少し時間をおいて、ネタが貯まって自分なりの整理がつくまで手をつけません。
でも、今回は違います。原稿を長屋の大家さんに送ってから、1時間後に書いています。同じ内容であまりにも酷い記事を見つけたからです。
本日(2026/05/28)の朝日新聞夕刊第一面の「素粒子」です。ご存じの方が多いと思いますが、歴史有る寸鉄コラム「素粒子」は、ツイッターぐらいの小パラグラフを3~5個ぐらい連ねて、一つのテーマを論じるスタイルで、朝の天声人語と並ぶ同紙の顔と言ってもいいものです。
お恥ずかしい話ですが、カタい話題でもあんなお洒落な文章で扱える「素粒子」は、子供の時からの憧れでした。今でも、「さすが」と言いたくなる修辞や論理展開をよく見かけます。ところが、本日のものは真面目に書いたとは思えない代物、ファンとしては目を覆いたくなる低品質でした。
酔っぱらいが書いたコタツ記事
テーマは巨人軍阿部元監督の事件で、論調として元監督を擁護する方向の世論を批判するものでした。自他とも認める弱者の味方である同紙らしいポジションですが、問題は事実関係が無茶苦茶なことです。素面なんでしょうか。現場取材はともかく、webぐらいちゃんと読んで下さい。以下、極力著作権を侵害しないよう配慮しながら引用します。
素粒子(2026年5月28日),朝日新聞,
https://www.asahi.com/articles/DA3S16472194.html
まず、冒頭。「どうして少女を責めるのか」。いろいろな先行記事やコメントを見ましたが、単純に「少女を責め」ているものを、ほとんど見ませんでした。基本的に被害者で、「素粒子」自身も触れているように冷静さを欠く状態に追い込まれているわけですから、少々のことでは責められる理由はないでしょう。
けれども、彼女の行動が全て正しかったかどうかは別の問題です。言い換えれば、もし今後誰かが同じような状況になったとき、同じ行動をすることを推奨できるかということです。実際、本人が予想も希望もしていない方向に事態が進行したのですから、全面的に正しい行動だったとは、とても言えないと思います。
特に、重大な判断にAIを関わらせたことには、大きな論争の余地があります。朝日新聞を代表とするいわゆる旧メディアは、平素はAIに対して懐疑的な立場をとっていて、若者が頼りすぎることに批判的だったはずです。その視点で議論するなら「被害を受けたら、呑気にAIなんかに相談せずに、すぐに警察に通報するべきだった」と書くべきなのです。もし、AIが「通報はやめなさい」というアドバイスを出し、躊躇している間に重大な追加被害が発生する可能性を「素粒子」氏は無視するのでしょうか。まさか「AIは絶対に間違わないから、その場合は殺されておきなさい」などと主張するつもりはないでしょう。
なにしろ前例のない問題ですから、いろいろな立場からいろいろ予想や意見が出てくるのは、当然かつ好ましいことです。その中で、少しでも彼女の行動の問題点を指摘すると「責めている」と言って非難するのは、一種の言いがかりです。
次のパラグラフは、児相を擁護する内容です。言っている事は正しいのですが、とりあえず今回は正しかったというだけの話です。けれども、「通報は、機械的に警察に連絡する」という対応では、何のために警察とは別に児相が夜中も窓口を開けているのか、という疑問に繋がります。通報と同時に、相談員を現場に派遣するのが理想なのでしょう。そうしたことへの言及もほしかったと思います。たとえば、素粒子らしく......
「児相に予算と人員の壁。通報は仕方ないけれど、本当は自ら現場に行きたかったろうに」
真打ち登場
さて、ここまでだったら、いちいち批判記事など書きません。3番目のパラグラフに、誤読誤解誤報の真打ちが登場します。
「被害者の手紙を公開したのは正解だったのか」......一瞬、目を疑い、手紙の全文を読み返しました。この手紙は、文面からも代読者の弁護士さんの紹介からも、世間一般に向けたものであることは明らかです。「正解」も何も、はじめから「公開」目的のものです。これをあえて「公開」しないほうが良いのは、次の3つの場合しかありません。
まず、手紙の内容が被害者の意思ではない場合です。具体的には捏造や脅迫が考えられます。こうした疑いを常に持つのはジャーナリストとして当然ですが、万一もし捏造や、ましてや脅迫だったら刑事罰の対象になりません。その状況での弁護士さんによる発表なのですから、一定の信憑性はあります。
これを否定するだけの材料を、朝日新聞社が持っているとは思えません。もしあったら、素粒子ではなくスクープ記事で発表するはずです。また各メディアが、「捏造を疑って公開しそびれた場合」と「捏造だったのに公開してしまった場合」の被害は、前者の方がはるかに大きいかと思われます。また、後者は訂正もできます。
次に、内容が嘘まみれだという場合です。けれども、この手紙は、ほとんど被害者の心情と「お願い」のみで構成されています。嘘をつく余地はあまりありませんし、つく理由はもっとないでしょう。
3番目に、反社会的なことやプライバシーやセキュリティーを脅かす内容を含んでいる場合ですが、これは論外。
つまりどう考えても、「公開」するのが「正解」なのです。そして、弁護士さんがすぐにメディアに公表しなかったら、この想いが世間の目にふれることは永遠になかったでしょう。被害者だからと言って、声を上げる事を封じられて良いはずがありません。
全ての言論人がやりがちなことですが、言論の自由について、自分たちに不都合なものは(おそらく無意識的に)排除しようとする。特に、朝日新聞は伝統的にこの傾向が強いと思うのですが、いかがでしょうか。
ゴミ記事はAIをも汚染する
さて、ほとんど誰も指摘しない事ですが、AIは今回の騒動をも織り込みつつあるということです。平素から、それぐらいの情報収集をしていなかったら、「DV」と「児相」とを結びつけて、警察より優先的に通報を推奨することなど、出来るはずがありません。
だから、「素粒子」のような社会的影響の強い記事がネット空間に排出されると、AIが読み取って、「うかつに児童相談所に連絡すると大騒ぎになって、エキセントリック連中が出てくる」ということを「教訓」としている可能性が無視できません。そのため、今後、同様の相談があれば、児相への通報を抑制する方向に動くことになりそうです。だとすれば、「素粒子」は日本の情報空間に毒をまいた事になります。
今回、私が例外的に腰椎反射で反論しているのは、少しでも社会的解毒をしたいからです。大家さんの影響力で、この長屋にもAIの目が届くことを祈るのみです。
橋下元知事の正論
社会的影響力が強い論者で、一番まともなコメントを出されたのは橋下元大阪知事です。念のため書いておきますが、私は維新支持者ではありません。それどころか、都構想や国旗国歌に対する考え方など全く理解できません。けれども、今回は簡潔でド・ストライクの正論を出されたと思います。
橋下徹氏 巨人・阿部監督辞任で提言「児相・警察は過剰気味に動く。説明があれば社会は許すべき」,東スポWEB,
https://www.tokyo-sports.co.jp/articles/-/389631
内容を要約します。
児童相談所・警察は「その時に厳しく対応せずに子供の命が失われて後から後悔するよりも、間違ってもいいから過剰に対応」する。「しかしその後の当事者の説明で、家庭内で対応できそうであれば、社会は家庭に委ねるべき。」「ファン商売である巨人も、世間からの反発を気にしてこのような対応を取らざるを得ない」が「過剰な社会的制裁は、むしろ児童相談所や警察の動きを鈍らせる」
こういうのを本当の法曹人というのでしょう。専門家のコメントは、こうありたいと思います。今後、AIがこうした良質の議論を吸収して、より洗練されたものになることを期待したいと願います。