しつこいようですが八潮市です。

一番不謹慎なやつは誰だ

 つくづく思うのですが、私たち人間は本当に忘れっぽい生き物です。韓国の政権はどうなってますか。万博の工事はどうなってますか。ガザの停戦は続いていますか。どれもこれもほんの少し前に騒がれていた事で未解決で、しかも今後の展開によっては自分のところに火の粉が飛んで来かねない話ばかりです。でも、ほとんどだれも現状の把握すらしようとはしていません。
 八潮市の道路陥没事件。不謹慎を理由に、あまり売れているとは言いにくい兄妹漫才コンビが糾弾されました。けれども、芸人の(舞台上での)不謹慎をいちいち叩いていたら、体がいくつあっても足りません。また、野暮というものです。
 しかも、あのときのネタ。過剰に安全対策をしている妹(ボケ役)を兄(つっこみ役)がからかうという構図の中で、「(ここまでやっているのに)秒で死んだらおもろいよね」「余裕で穴落ちて死んだんだけど」となるわけです。ですから、事故の被害者を侮辱したり笑ったりする要素は全くありません。
 難を言えば、「秒で死ぬ」のは誰なのかが解りにくて誤解されたことと、全く面白くなかったことでしょうか。これを不謹慎だと非難するのなら、なんで芸人が芸のことでいちいち謹慎しないといけないのか、説明してもらいたいものです。イヤなら見なければいいものの典型なのですから。
 事故の被害者が声を上げておらず、また声をあげようという気もなさそうなのに、外野が勝手に騒ぐのはそろそろやめにしませんか。

 ゾンビじゃねえぞ

 不謹慎といえば、下水管内に今の残るトラックの運転席を3週間もかけて探しに行くのを「救助」と言う行政の方がよほど不謹慎です。完全武装の自衛隊員も消防署のレスキューも近づけない地下空間に、防護服どころか水も食料ももたずに転落した高齢者が、事故後1ヶ月以上も生存していると考えるのは、逆にかえって失礼でしょう。「生きていることにしとけば、問題ないよね」という責任逃れが丸見えです。もし私が被害者の家族だったら、「うちのじいちゃんはゾンビじゃねえぞ」とキれていたでしょう。
 一方、本気で救助を考えているのなら、2回目の転落後、すぐに水を完全に止めるべきです。流域の上水道を断水すれば半日ほどで下水への流入は、ほぼなくなります。水さえ無ければ、瓦礫を撤去してトラックの運転台を引き出せるかも知れません。真上から穴を掘って下水道管を破ることもできます。決して救出の可能性が高いとは言えませんが、万一のチャンスに賭ける気なら、水を止めなければ話になりません。
 数日間の断水を住人に強いることになりますが、人命第一なら迷うことはありません。意地の悪いことを言いますが、落ちたのが幼児で満員の保育園のバスだったら、あるいは石破総理の公用車だったら、確実に断水作戦をやっていたんのではないでしょうか。
 でも今回は「見殺し」でした。「生存の可能性が少ない一老人のために県民の生活や地域の経済を犠牲にはできない」という判断をしたのなら、そのことをトップ(知事かな)は発表するべきです。

公表されていないこと

事故はほぼ確実に人災で、その責任は100%行政にあることが確実なのに、県や市を批判する声は、漫才兄妹を非難する声の100分の1ほども聞こえてきません。それを良いことにしてか、県は事故の原因を粉飾することで、責任問題から逃げようとしているとしか思えません。もしかしたら既存メディアも取材力が弱く、事実が断片的にしか見えてきません。「行政が把握していることが、おそらく確実なのに公表されていないこと」の具体例を挙げてみましょう。
 まず、下水管の現状と事故にいたる破壊進行の経緯が全く発表されていません。事故現場の想像図でさえ、掲載されるメディアによってバラバラです。特に、すぐ上流の交差点内にあるはずの巨大な人抗(マンホール)と事故現場の位置関係が分からないため、今見えている巨大な穴は、もともとの人抗の一部なのか、土砂の流出だけによってできたのか、「救出作業」のために掘られたものなのか全く不明です。
 土砂の流出量や地下水の流量なども、行政からの発表はありません。そもそも今現場で流れている水の大部分は本当に下水なのでしょうか。地下水、あるいはどこかで上水道から漏れ出た水が直接下水道に流れ込んだものということもあり得ます。
 実は、地下で水道管から大量の水が下水に流れ込んでいる場所は、日本中にかなりあるようです。大阪市内の拙宅の近所にも、24時間かなり大きな水音の響くマンホールがあります。原因はどうやら水道の漏水のようなのですが、発生場所が分からず何年も手つかずになっているところがあります。

原因不明は対策不能

 現状把握についてさえこの始末なのですから、今後の見通しとなると全く情報が出てきません。水による穴の拡大は止まっているとのことですが、何を根拠にそうおっしゃるのでしょうか。周囲の河川堆積物(さらさらの砂)や関東ローム層(パラパラの火山灰)のような地層は、少量の水でも時間が経てば崩れていくものです。鉄の矢板を打ち込んだだけのような現場が、今後どれだけ頑張れるものなのでしょうか。特に流れの底の部分の状態は、外からは見えず完全に把握できているはずがありませんから、非常に心配です。蟻の一穴のようなものが出来れば、周囲で新たな陥没が起こる危険もあります。
 今後の下水道システム全体の復旧を考える場合も、事故の原因が硫酸による腐食だけなのか、あるいは別の複合的な要因があったのかで、工事の考え方自体が変わってきます。
 腐食が主要因だったとしたら、周囲の下水道管の状況も把握した上で工事範囲を考えないと、巨額の費用を投入て完全復旧したつもりなのかも知れませんが、同じ下水道管の別の場所でまた腐食と陥没が発生して、単なるモグラ叩きになってしまう可能性もあります。
 また、逆に腐食に加え、地下水や道路振動などが大きな原因になっているのなら、そちらの方の対策を優先的に手当しておかないと、この場合は同じ場所でまた陥没が起こることになります。

国レベルでの後遺症

 動きが鈍いのは、メディアも同じです。なにかと国や自治体に噛みつく癖のある旧来型のマスコミも、なぜか動きがあまりよろしくありません。メンテの怠慢または無能のせいで、人を一人死なせ、また巨額の損失を出した県の責任をどうするのでしょう。まず知事の引責辞任は当然だと思うのですが、そういった方面への議論は一向に盛り上がりません。
 こういうときは、ネットメディアに期待したくなるのですが、どういうわけか小物の芸人をしつこく叩く元気はあっても、行政や既存メディアへの批判は今もって元気が出てきません。
 現場の完治が数年単位で難しくても、安易に応急処置と対症療法を繰り返していると、信じられないような損失がいずれ発生するはずです。どうするつもりなんでしょうか。今後、梅雨や台風で雨量が激増する度に、付近で大小の「崩壊のお代わり」が発生したりすると、巨大な下水管を別に一本作り直す必要が出てきそうですが、用地買収を含めて費用を十分に捻出できるのでしょうか。また費用対効果を含めて適正な設計ができるのでしょうか。
 国レベルでの後遺症が残りかねない事故なのに、メディアの関心は消滅しかけています。「連日、日本人メジャーリーガーを追いかけ回してばかりいる場合ではないでしょ」と思うのですが。