証明も否定もできないことへの対応 【気候変動 その2】

 私自身は、いわゆる人為的地球温暖化は立証も否定もできないことだと思っています。
 まず、否定の方ですが、「何かが無い」ことを証明するのは悪魔の証明と言われる無理ゲーになりがちです。数学の証明のように、極めて限られた世界で議論する場合でも、フェルマーの大定理を証明するのに何世紀もかかりました。人類の英知なんてその程度のものなのです。
 地球温暖化のように、未知の現象や要因が山ほどありそうな議論では、悪魔の証明は一層困難です。苦労して「温暖化が起こっていないこと」を証明しても、「これからおこるのだ」と反論されたらそれで終わりです。
 同じように、「人為的な温暖化が起こっていること」を立証するのも、関係する要素が多すぎるので、「そのシミュレーションには重要なファクターが抜けている」とか「精度が低すぎる」との反論が常に可能です。ただ、それよりも人為的温暖化の証明にはもっと本質的な困難があります。

 困難な人為的温暖化の証明

 大気中の二酸化炭素の濃度はだいたい400ppm前後とされています。コップ一杯に1~2滴のイメージです。大気圏内全域にわたる(かなり)精密な測定が可能になったのは80年代の話なのですが、現在まで一貫して増加しています。たとえば日本上空6kmなら350ppmから420ppmへ2割ほどの増加です。やかん一杯の水に数滴分の増加です。40年でこれですから、年間0.5%ほどの話です。
 分布にもムラがあります。土壌や生物の近くは当然高いですし、何かが燃えたり発酵したら周辺では爆上がりします。大気圏の中でも、高度によってもばらつきがありますし、海と陸の上でも状況が変わります。
 一方、気温上昇の方もかなり多めに見積もっても40年で0.5度、空気の熱エネルギーを表す絶対温度はほぼ300度ですから、せいぜい0.2%、年間にすれば、0.004%の話です。
 まとめて言えば、「年間0.004%の変化の原因が別の0.5%の変化かどうか」を議論することになります。その間、気温も二酸化炭素濃度も数100倍の規模で、毎日変化しています。巨大なノイズの中で細かい変動を観察して議論するのですから、どうしても結論に幅が出来てしまいます。
 公害病裁判など環境問題でいつも大問題になるのは因果関係ですが、もともとの原因も結果もこんなに微細な現象なのですから、証明は事実上不可能です。

 もうひとつ、温室効果がおこっている現場は誰にも見えないこともあります。世界中の実験室で、さまざまな二酸化炭素濃度の空気を、さまざまな温度や圧力にして、さまざまな波長の光線を、さまざまな方法で、エネルギーの吸収や放出が測定されているはずです。
 けれども、温度・湿度や圧力などを変化させながら時には数百キロも移動し、数千メートルも上昇降下する実際の大気の温室効果がどうなっているのか、室内で再現することなど出来るわけがありません。
 このため、コンピュータシミュレーションの力を借りてというより、その言いなりになって最後の結論を出すことになります。過激な批判をすれば「只のコンピューターゲーム」となってしまいます。
 有名な真鍋淑郎博士のノーベル賞研究もこのタイプですが、この1960年代の手計算での数値シミュレーション以来、計算機の能力が飛躍的に伸びたにもかかわらず、実際の気温上昇を予想するという意味での研究は、当時からあまり進んでいるとは言えないでしょう。

 人為的温暖化がなくても化石燃料は危険

 最近、おもしろい研究を見かけました。一般に言われている地球温暖化論とは、原因と結果が逆になった話です。
 二酸化炭素の増加の原因で、人為的でないものの中で一番有力なのは、地球の温度上昇、特に海水温の上昇です。淡水でも海水でも温度が上がれば、溶け込んでいる二酸化炭素が気体になって出てきます。これ自体は確実におこることですから、もし海水全体の温度が上がれば、空気中の二酸化炭素量は増えていきます。そして、実際の増加量は、この現象だけで説明できるというものです。
 https://agora-web.jp/archives/240806054159.html ほか

 私個人は、この説を支持します。第一の理由は、二酸化炭素濃度のデータには、1980年代後半からおこるBRICSの急速な工業化、2008年のリーマンショック、そして近年のコロナ禍、などの痕跡が見えないからです。
 https://ds.data.jma.go.jp/ghg/kanshi/co2timeser/co2timeser.html 

 第二の理由は、なぜかあまり指摘されていないのですが、増えている二酸化炭素の種類です。化石燃料起源の二酸化炭素に含まれる炭素は、新鮮な生物起源のものと比べて、炭素自体の種類が少し違っていて「炭素14」の含有率やや少なくなっています。そのため、もし近年大気中に増えた二酸化炭素が化石燃料起源なら、大気全体の「炭素14」の濃度は、「水割りの原理」で大きく薄まるはずです。二酸化炭素の総量が20%も変化しているのですから、世界中の研究者がこの「炭素14」の変化を見落とすとは思えません。けれども、そういう報告を見たことがありません。
 整理しますと、どうやら大気中の二酸化炭素が増加したため気温が上昇したのではなく、気温(厳密に言えば海水温)が上昇したため、海水中の二酸化炭素が大気に放出されたというのが実情のようです。最初の気温上昇の原因は分かりませんが、どう考えても人類に責任があるとは思えません。
 けれども、ラッキーとばかり化石燃料をガンガン使うのは止めた方がいいでしょう。人類が、海水温上昇の分に上乗せして二酸化炭素を増やしたとき、今度は逆のメカニズム、すなわち一般に言われている温室効果も発生して、温暖化の悪魔のループになり、金星化まで行ってしまう可能性があるからです。

ためらいの環境政策

 実際、何もかもわからないことだらけの現状で、科学者に出来ることは、「温暖化がおこっているのかいないのか?」「おこっているとすれば原因は化石燃料の燃焼であるのか?」「温暖化は人類や地球環境にとってどんな影響があるのか?」の3点を、できるだけ正確に見積もるしかありません。
 人為的温暖化を主張するにしろ、「どうやら化石燃料が出す二酸化炭素のせいで地球の気温があがりそうです。人類にとって具合が悪そうですが、どうしますか」としか、科学者にはこれ以上のことは言えないはずです。
 あとは政治や経済の問題です。温暖化で大きなダメージを受ける人と温暖化防止措置で大きなダメージを受ける人とが話し合って、落としどころを見つけるしかありません。けれども実際には、温暖化防止で一儲けをたくらむ人と温暖化防止阻止で支持を集めたい人との争いに、それぞれの取り巻きが騒いでいるのが実態でしょう。利害関係者でも環境フーリガンでもない我々が、まずは冷静になるしかありません。
 多くの問題がそうであるように、気候変動問題も、専門家の歯切れの悪い議論に耳をかたむけながら、様々な利害関係とイデオロギーの間ですり合わせをして、ためらいながらやっていくよりないと思います。