泣いて逃げ出すSDGs
SDGsって、あれは何ですか。何の脈絡もない17の目標というか、お題目。抽象的なものもあれば具体的なものもあり、その上やたらと重複しています。たとえば、「10.人や国の不平等をなくそう」を達成すれば、わざわざ別途「5.ジェンダー平等を実現しよう」ということもありますまい。「2.飢餓をゼロに」しなければ、「3.すべての人に健康と福祉を」与えることはできません。
そのくせ、「自由」「文化・芸術」、そして先進国共通の問題である「少子高齢化」の話は無視のようです。だいたい「17.パートナーシップで目標を達成しよう」とまとめてしまうと、1~16は17にある「目標」の細目やら具体例になっていて、目標は一個だけになってしまいます。
混乱のあまり機能停止になっている国連の象徴。Fラン呼ばわりされている大学の学園祭テーマでも、もう少し小ぎれいにまとまっています。ただし、建前・目標・理念のサブスクですから、たいていの企業や団体は、「うちもSDGsに貢献してます」と言えて便利ではあります。
大阪万博も「SDGsとの親和性が高い万博」などということになっています。しかし、街ひとつ分ぐらいの新築建物を半年でぶち壊す話が、「11.住み続けられるまちづくりを」とどう繋がるかわかりません。「6.安全な水とトイレを世界中に」ということで、2億円の出費ですか。
公平のためのあえて言えば、これは今回の関西・大阪万博だけの問題ではなく、博覧会というものの宿命的な矛盾です。大成功と言われた1970年の大阪万博でさえ瓦礫の山を残しましたが、いつのまにか闇の中に消えていきました。果たして今回は「うまく」いくのでしょうか。
いろいろあります頭痛のレガシー
外国パビリオンに関しては万博開幕まで一年を切った今(2024.5.1)、着工しているものさえ20以下、閉会後の原状復帰の準備ができているところがいくつあるのでしょうか。もっと深刻なのは万博協会自体の施設です。国や企業は体面がありますから、自分たちのパビリオンが、いつまでも無様な姿をさらしているのを放置はしないでしょう。
ところが、大阪万博の組織は上から下まで出向者だらけ。閉幕後に帰れる日を指折り数えて待っているでしょう。特に今回のように、膨大な運営費の赤字をはじめ、多種多様な負のレガシーが見込める場合、関係者は蜘蛛の子を散らすように消えていきます。
膨大な数の万博協会物件。考えてみれば施設内の道路や広場、トイレなんかもそうです。たとえば、広さ2.3haもある「静けさの森」はどうするのでしょう。「終わったら自然に返そう」なんて言わないでくださいね。人間が植えた樹木は世話をしないと簡単に枯れます。清掃や下草刈りなどのメンテナンスを怠ると、森はヤブに、池はドブにたちまち変化します。夏ごとに大量のヤブ蚊が発生し、カジノのお客様を歓迎するでしょう。悪いことは言いませんから、閉会後はただちに伐採して更地にもどしましょう。それが一番安上がりです。
こうした「あとかたづけ」費用の総額は見当もつきません。例のリングの処理だけでもとんでもない金額になります。建築面積約60,000㎡、高さ12m(外側は20m)」「(木材部分は)建設時の数量は 柱材約1万㎥、梁材約1万㎥、屋根材約6千㎥」などと万博協会のプレスレリースにあります。木材の比重はだいたい1ですから、木材だけで2万6千t。仮に市の処理場に持ち込んだら、引き取ってもらうだけで2億5千万円以上かかる量です。意外と安いようですが、あの巨大なリングを安全に解体し、分別・積み込み・運搬などとやっていると、簡単に十数億という話になるはずです。これらは、例の344億の建設予算に含まれていると思っていましたが、どうもそうではなさそうです。
維新が目指す幕藩体制
最近になって、博覧会協会は「国際博覧会 大屋根リングのリユース等提案募集」などと始めました。恐ろしいのは募集対象が「有効活用する意向のある法人又は法人グループ、公的機関、自治体」となっていることです。公的機関や自治体は「法人」に決まっていますから、わざわざ名指しで列挙する必要はありません。つまり、「大阪の公的機関や自治体は、普段は面倒みてやっておるんやから、手伝わんかい」と言いたいわけでしょう。
かわいそうに、自治体や学校法人などから、福祉施設・仮設住宅・学生会館などの構造材に、というアイデアが出ているようですが、前にも書きました通り、廃材を構造材に使うのは建築基準法上かなり無茶な話です。案の定「構造材への活用には法的課題の解決が必要となる」などする注釈が、公募の結果発表に出ていました。実現不可能な「絵に描いた餅」のコンペをしている場合ではないと思うのですが。
支配下にある団体に負担を押しつけて、それを自主的のように言う......まるで令和の幕藩体制。パレードの警備ボランティアに大阪市の職員を動員したのと同じ構図です。
基礎の基礎が一番怖い
あまり誰も指摘しないことですが、リングの基礎部分はどうするのでしょう。構造は夢洲名物のベタ基礎だとして、厚さはどんなに薄くても平均20cmはあるでしょう。リングの面積は約6万平米で、コンクリートは水の2.3倍の重さですから、
60000 × 0.2 × 2.3 = 27600(t)
小ぶりなクルーズ客船ぐらいの重さです。それを砕いて、掘り出して、積み込んで、運ぶ......気の遠くなるような作業です。そもそも、最終処分場が簡単に見つかるとは思えません。
考えてみれば、リングに限らず建物には基礎があるのですから、会場を更地にもどすなら全て撤去することになります。これは、どう考えても現実的な話ではありません。沖合にまとめて投棄して、もうひとつ人工島を作ることになりかねませんが、その場合、その人工島で博覧会を開いたりカジノを建てたりすることは、法律か条令で永遠に禁止してしまうべきでしょう。
結局、建物の基礎には手を付けずに放置して、ゴミを埋め立てる場所やリング廃材専用の焼却場も島内に作り、万博の後始末は「地産地消」でするのが一番安上がりだと思います。瓦礫の運搬にエネルギー資源を、さらに使うこともないでしょう。
問題はIRですが、「ゴミと瓦礫の島で、やりたければどうぞ」と突き放せば、多分、業者は断念してくれるでしょう。こうして全部片付いたら島ごと閉鎖して、一丁あがりです。これを暴論と言うなら、これ以上、国民や大阪府市民に追加負担が行かない処理方法を教えてほしいものです。