お値段以上のスリル 【大阪万博 その04】

 こんばんわ。村山恭平です。
 前回は万博会場が極めて地震に弱いという話をしました。では、会場で大きな地震に遭遇した入場者はどうしたらいいのでしょうか。

島からの脱出は考えても無駄

 一番大事なのは、夢洲からの脱出は考えないということです。一刻も早く逃げ出したい入場者が、数少ない橋やトンネルに殺到してパニックになりかねません。身動きがとれなくなったところで、余震、火災、津波が来たら助かりようがありません。
 次に避けるべきなのは、タイプAの海外パビリオンです。斬新なデザインが売りの設計ですから、耐震性など本質的に分からないのです。逆に、タイプX、タイプB、タイプCなどはありふれたプレハブ造りですから、屋内での落下物や火災の可能性が無い限り無事です。それでも、ひとまず揺れが収まったら、外に出て出来るだけ建物のないところに行って救助を待ちましょう。

 地震直後に一番怖いものは火事です。レストランなどの火の元になりそうな所からも離れるのは当然としても、それだけでは済みません。夢洲名物のメタンガス問題があります。地震の揺れでガスが吹き出し発火したり、それが地下室などに充満して爆発することにも注意がいります。ヤバそうなところにも近づかないことです。

津波に遭ったらさようなら

 では、津波の心配のあるときはどうしたらよいのでしょうか。幸い、大阪湾は歴史的にも津波の記録の少ない場所です。付近では、能登で発生したような逆断層型の地震が、あまりおこらなかったからです。「今後も絶対におこらないか」とか、「逆断層型でなければ津波は無いのか」、などと言わないでくださいね。そもそも、人工島の0m地帯に行っておいて、津波の心配するほうがどうかしているのですから。

 近くでおこりそうな逆断層型の大地震といえば、東南海地震や南海地震です。津波の到達まで10分とか20分とか言われています。ただし、巨大地震の場合、地球上のどこでおこっても、津波がやってくる可能性はあります。現にチリ地震(1960)では、三陸地方で大きな被害が出ました。丸一日ぐらいかけて大津波がやってきたのです。こういうのは逃げる時間はたっぷりある......というより、その日は朝から会場自体が閉鎖でしょう。

 以上のことをまとめれば、東南海や南海地震に備えて、地震後10分程度で避難することを考えておけばいいわけです。それ以外の状況は、「逃げる必要がないか、逃げようがないか」のどちらかですから忘れましょう。
 ではどこへ逃げるか。頑丈な建物の三階以上に上りたいところですが、会場内にはあまりありません。もちろんタイプAに逃げ込むのはやめたほうがいいでしょう。国内の企業団体パビリオンやタイプB、C、Xの外国展示館は基本的にプレハブですが、とりあえず避難場所にはなりそうです。けれども、日時によっては数万人もいそうな観客やスタッフの避難場所には、足りそうもありません。

最後の望みはリング様

 というわけで結局、例のリングの上に逃げることになりそうです。確かに、大きくて探しやすく、開放的なのでメタンガスや火事の煙の危険も少ない。理想的な避難場所なのかもしれません。もし私が万博担当大臣だったら、「リングは日傘になもなる」などというマヌケな台詞の代わりに「津波の避難所になる」と言えば、一定の理解は得られたでしょう。ただし、これには「リングが地震にも津波にも耐えられる」という条件がつきます。
 身も蓋もない話をすれば、津波を想定しながら大阪万博の話をすること自体が、野暮なのかも知れません。島内に越流するような規模の津波が発生したら、軟弱な表層地盤が丸ごとえぐられ、ベタ基礎の構造物(つまり島内のほとんど全ての建物)が片っ端から倒壊する可能性は低くないでしょう。そんな事態になればリングは全壊、木材は水に浮きますから、津波の高さによってはきれいさっぱり流され、波の彼方に消えてしまうこともありえます。

 延々とリスクの話ばかり書いていると「万博の開催期間はわずか半年。その間に大地震が来る確率はわずかだし、大津波がやってくる確率はもっとわずかなんだから、気にするな」という声が聞こえてきそうですが、だったらIRはどうなんでしょう。今後数十年単位で考えれば、東南海地震や南海地震がやってくる確率を無視することは無責任です。
 地震が来れば、津波やらメタンガスやらの危険は、カジノなんかよりよほどスリリングです。バカラやルーレットで全財産を失うことはあっても、命まで要求されることはないのですから。