地震リスクの博覧会 【大阪万博 その03】

 こんばんわ。村山恭平です。
 久しぶりに万博の話です。元旦に能登を襲った地震、万博に関する議論にも大きな影響がありました。けれども、ほとんどが資材や人材、それにお金を能登の復興に回すべきだという復興優先論です。もちろん、私もそう思いますが、もう一つの大事な論点がほとんど無視されていませんか。「開催中に能登と同様の地震が大阪南部でおきたら、入場者やスタッフの安全は確保できるのか」ということの点検です。

基礎の話の基礎の基礎

 今回は、最初に少し解説をしておきます。建築の土台、基礎の話です。何か建物を作る場合、よほど軽いもの以外は最初に基礎工事というのをやります。建てたものが自分の重さで地面にめり込んだり、傾いたりしたら困るからです。
 基礎には大きく分けて2つのタイプがあります。いわゆるベタ基礎と杭基礎です。ベタ基礎の場合は、建物のできる場所に板状にコンクリートを流します。固まれば、人工的に作った堅い地面になるので、その上に柱を立てて骨組みを作っていきます。
 個人宅など比較的小型の現場で使われる方法で、安くて工期が短いのが利点ですが、もともとの地盤が軟らかかったり、建物が重すぎたりすると、このベタ基礎自体が沈んだり傾いたりしてします。
 そのため、一定以上の規模の建物では、地下深くにある堅い地層(支持層)まで多数の杭を打ち込んで、その上に柱を立てて骨組みを作るという方法がとられます。鉄筋コンクリートの建物や四階建以上の鉄骨のビルはこの工法で、タワマンなどの超高層ビルはこれに含まれます。
 しかしこれは大変な工事です。たとえば、大阪帰宅のフェスティバルタワーなど、数千人収容のホールの上に高層建築を作るという世界的に例の少ない特殊な物件で、杭基礎の深さは86mにもなります。当然、膨大な費用と工期がかかってしまいます。

夢洲の現実

 万博の会場のある夢洲は、昔のゴミの埋め立て地で地盤が極端に弱いところです。人工島などの埋め立て地では、大地震時に地盤の液状化がおこることは常識です。能登でも発生しましたし、阪神大震災のときには神戸市沖の人工島では大きな液状化が発生しました。これらの島は、山間部を造成したときに出た土砂で作られたもので、もともと街をつくるためにできた場所ですから、夢洲よりもかなりマシな地盤です。
「夢洲では液状化の問題はおきない、もとから液状の地盤なんだから」などというジョークがありますが、いまだに新鮮なメタンガスが地下ポコポコ発生していることを考えれば、笑っている場合ではないでしょう。
 こういうところに建築物を作るときは杭基礎一択です。ところがリングの場合、6000本ある全ての柱で杭工事をしたら数十億円は吹っ飛びます。おそらく、何か「マジック」をして省略したのでしょう。閉会までの間、自主的な沈下や傾きは免れたとしても、耐震性が十分であるとはとても思えません。大阪には大地震は来ないことになっているのでしょうか。けれども、原発まである能登半島だって、大きな地震や津波は来ないことになっていたはずです。
 タイプAの海外パビリオンの工事が難航どころか不可能になりつつあるのも、基礎工事の負担が問題になっているのでしょう。半年しか使わない物件に杭基礎は勘弁してほしいものです。ニュース番組で見ただけなので信憑性に自信の無い話なので仮名にしますが、ある国のAタイプのパビリオンは、建物を支えるために発泡スチロール製の「浮き」を使うそうです。よく建築確認申請が通ったものです。

リングが木製であることの理由

 リングを鉄骨製やコンクリート製にせずに木材を使ったのも、軽くするためでしょう。永久保存というプランが盛り上がらないのも、設計陣が青くなっているからかも知れません。「今になってそんなこと言われても」と言うわけです。
 なにしろリングは、柱や梁の材料は集成材(要は寄せ集めで作った材木)で、伝統的な貫工法で、ボルトによる耐震補強。そんなシロモノが屋外で、灼熱の太陽、吹きすさぶ潮風、40度近い寒暖差、ついでに大阪市民の冷たい視線に、最大2年近くさらされる訳です。「集成材にボルト用の穴を開けて大丈夫なのか」、「貫工法は長周期振動に耐えられるのか」、などの疑問が次々に出てきます。

 それでは、会場にいて大きな地震に遭遇したときは、どうしたらいいのでしょうか。その話は次回以降ということにしましょう。