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とってもシュールな住吉のだんじり

5月5日(祝)、神戸東灘は薄曇り。
JR住吉駅近くの本(もと)住吉神社例大祭、だんじり祭の本宮に来ている。

JR 住吉北 JR 住吉北

神社と高層ビル 神社と高層ビル

5月のゴールデンウイークに、神戸・東灘のだんじり祭がある。
神戸・東灘のだんじりは、おなじみの岸和田のだんじりのような型とは違って、神戸型といわれているものである。
記録によると天保年間、住吉には1830年頃にだんじりを新調した記録があり、そのころすでに現在のような神戸型のだんじりが出ていたことが伺える。
特徴は屋根廻りと飾り幕、そして外コマである。
まず屋根廻り。正面大屋根の真ん中には、鬼板と呼ばれる屋根をかむ大きな獅子の彫刻(獅噛)がつけられている。
また山形といって、唐破風の屋根のカーブに沿って、地区名の一字を書いた提灯が10数個とりつけられているのが特徴だ。江戸文字っぽいその墨文字は、なかなか鯔背な雰囲気がある。
飾り幕は金糸銀糸の絢爛豪華なもので、屋根の下の四方を取り囲んで飾られている。
その刺繍は金龍や源平合戦や秀吉などの合戦もの、天の岩戸などの神話ものなどがテーマに選ばれていて、これが競い合うように各地区ご自慢の作品になっているのだそうだ。
岸和田のだんじりのように構造上、走って辻を回す「遣り回し」は行わないが、四方を「担い棒」や「ちょうさい棒」といった丸太棒で囲んで、大勢がその棒の操作に関わり、それによってだんじりをシーソーのように上げ下げして練る様は、また違った面白さがある。

その祭りをやっているエリアは、御影、住吉そして本山といった、住宅情報誌やマンションの広告によくその名前が出てくる地域で、阪神間の閑静でハイライフな住宅地的なイメージからは、なかなか岸和田のような下町チックなだんじりは想像できない。

住吉地区の本住吉神社のだんじりは7台だ。
御影地区に比べて大きいといわれているのは、御影の弓弦羽(ゆずるは)神社の鳥居より、こちらの元住吉神社の鳥居の方が背が高いからだそうだ。
まただんじりは、「地車」であり「御輿」でないから岸和田でもどこでも普段は、各地域にある蔵(=だんじり小屋)に入れられていて、祭礼にだけ宮入をするのだが、住吉地区では7台のだんじりすべてが、本住吉神社の境内にある蔵で収納されているとのことだ。
多分、だんじり小屋がマンション敷地になったのだろう。

JR住吉駅のすぐ南、国道2号線沿いにある本住吉神社の宮入を訪ねると、何ものでもない祭りの熱気と音と匂いがある。
境内には、いろんな屋台が並んでいる。
たこ焼きや固焼き、今風のバナナチョコやカップ1杯入れ放題のフライドチキン。
射的の屋台もあるところが祭の屋台で、テーマパークのそれではない。
プラモデル屋はなぜだか知らないが、コルト38口径やベレッタM92などのピストルばかりが並び、これも岸和田だんじり祭の屋台と共通だ。
けれども射的は誰もやってないし、モデルガンを売ってるのテキ屋のにいちゃんに「おい、本物はないんか。あったら買うど」と言うような、岸和田だんじりのような者はいない。

だんじりはそんな屋台が並ぶ、人また人でいっぱいの本住吉神社に入ると、だんじりを大勢でよいしょとウイリーのように傾けてくるくると練り回す。
観客の拍手の後に神社を出ると、いきなり阪神間きっての執事付きの高級マンション群も近くにある住宅街に出る。
鉦と太鼓のだんじり囃子は、祭の列をだれも見下ろすものがいない高層マンションに喧しくこだまする。
揃いの法被を着たヤンキーチックな曳き手や屋根乗りと、獅噛の屋根に古い地区名の一字を書いた提灯と、絢爛豪華な金糸銀糸で刺繍された赤幕と、勇ましい武者物の彫刻が施された地車の行列はとてもいかついし、参加している若者の家族や知人たち、そして近所のお年寄りたちの見物人も多い。

けれどもそのだんじりの横をこのあたりらしい、ガンメタBMWや赤ボルボなどの欧州車が行き交い、JRの駅からは神戸大丸の紙袋を持った祝日のよそ行き姿の女性や行楽帰りの家族連れがはき出され、すぐ横のタクシー乗り場からタクシーに乗ったり、あるいはだんじりを遠巻きに足早に通り過ぎる。

それはとてもシュールな光景である。
年に一回の本住吉神社例大祭のだんじり祭礼と、快速停車駅の住宅街ゴールデンウイークの一日。
まるでNHKのローカルニュースで旧い都市の伝統行事からいきなり海外旅行に出る人の空港シーンへとトピックスが切り替わるように、両方の祝祭日がこの街に見える。

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2007年05月11日 23:36に投稿されたエントリーのページです。

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