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「おたくヤクザ」

5月1日(日)

夜中の3時に酒腹状態で腹が減ったので、歩いて35秒のローソンに行くと、文藝春
秋が1冊だけ残っていた。
特集は「平成ホリエモン事件」。
この号は、6月26日付のこの大家さんの書くブログで、当の大家のウチダの親父さ
んが、「大真面目に不真面目極まりない文章」を適当に書いて、1万円の原稿料をも
らったとかを読んでいたのを思い出し、「オレも編集者の端くれ、滅多なことは致さ
ぬが、版元の為にも、せめて店子が…」と夜中の食い物と一緒に買うことにする。

「各界著名人64人が推す 次の総理はこの人」というコーナーがあり、一番手の西
尾幹二、続いて小林信彦、瀬島龍三(このおっさんNTT顧問・亜細亜大学理事長になってたんや)…と来て、ちょうどど真ん中くらいに、あったあった、うちの大家の内田
樹(神戸女学院教授)。
題して「浮かんだことがない」。
読み直してみると、ほんまにそうやし、大笑いである。

けれどもほかの「各界有名人」はだれで、どういう有名人が「誰を次の総理に」とい
うことを書いているのかだけしか興味がなかったので、おかげでそのあとキリンラガーの小瓶を2本も飲んでしまった。
完全に出来上がってる状態で寝て、明くる日(といっても当日の昼過ぎだが)起きた
ら、それは完全に忘れていて、ついでに何を買って帰って食べたのかも忘れていて、
いかんなぁ、これではアル中やんけ、と思い、ゴミ箱の中をのぞいたら、シュウマイ
ともずくのパックが出てきたので、ようやく思い出した。

けれども、特集ホリエモンの部分は、少々真剣に読んだ。
といっても伊藤忠の社長や大前研一とかのいわゆる「会社経営」の人の文章は、「読んでも読んでない状態」である。
読んだのは、まず立花隆さんの文章で「インターネットがあれば、新聞もテレビもい
らない」と堀江は言ってのけ、情報源として最重宝しているのは自社の社員が毎日作成している社内メルマガと言い、またおまえとこのライブドアの記者制度ってあるけど、ろくな記者もろくな記事もない、ただ自社発の記事のアリバイづくりだけやない
か。
その「デイリーさくサク」というメルマガも、既成の新聞や通信社あってのことやな
いか、と書き捨てておき、「既成メディアの情報力は、合わせると万をもってかぞえられる第一線の取材記者群の取材能力にある。そしてそれらの記者たちが集めてくる一次情報を吟味し、評価し、記事にまとめ上げていくすぐれた編集者たちの知的エネルギーにある。」と繋いでいる。
要するに、「一次的なオリジナル情報をバイアスをかけずに右から左に丸ごと流すの
が理想だ」と主張する堀江は、ゴミだらけガセネタだらけのそんな情報の山に対峙す
る一般大衆が、アップアップするのをわかっていないのではないか、ということだ。

このところ冴えている精神科医の斎藤環さんのは「診断名は『社交的引きこもり』」
というタイトルだ。
これもまたおもろい。
そもそも「金で買えないものはない」と言う堀江は、ほんとうは「金」も「自由」も
いかなる価値も信じていない。
読み手と書き手のマッチメイクだけがすべてで、2ちゃんねるも新聞もアクセスが多
ければそれが価値基準だとうそぶくが、それはある種のシニシズムに過ぎず、ほんとうは堀江はコミュニカティブでない。
なぜならコミュニカティブな人間は、当の自分を仮託する物語を飽くことなく探すは
ずで、彼は物語などを生きてはいなく、ただ終点がない「欲望そのものが自己目的化する」という点で「ひきこもり」やないか、と書いている。

平川克美さんは「金で買えないものはない」という堀江のことを、ほんとうにそうだ
と思っているのなら「度し難いバカだ」とブログで書いておられたが、その8ページ
に亘る特集号インタビュー「牙を抜かれた経営者は去れ」(これもあんまりなタイト
ルやなあ)を読んで、オレは気分が悪くなった。

「40歳以上は経営陣から引いたほうがいい、というのは真実だ」というのはオレに
当てはめてみても、まあそうかも知れん場合があるにしても、ニッポン放送買収のこ
とを「僕のように若くてしがらみもない、(メディアに触れられたくないことを)報
じられて困ることのない人間しか手が出せなかった」と言っている。

これは思い上がりとかいったものでなく、まるでアウトロー、つまりその博打場にお
いてのヤクザの論理である。

「自分が楽しく生きたいんですね。世間的な、俗な意味でいえば、金にも権力にも名
誉にも実は全然興味がない。だって、もうすべて手に入れちゃったから。これ以上何
があるんだ、というぐらい」と言い、続けて「みんなが幸せに生きられる社会の仕組
みを作るために何をしたらいいのかを、毎日頭が痛くなるほど考えているんです。考
えているけど、結局それは自分が楽しくやりたいから。別に奉仕なんかしたくありま
せん」と言う。

そういうことに毎日頭が痛くなるのは「度し難いバカ」に加えて「度し難い極道」だ
からである。
こういうヤツには、頼むし、どうかだんじり祭には参加しないでほしい、と祈るばか
りだ。

「世の中は移り変わるんだから、続くことを求めることがナンセンス。 百年続く企
業をつくるなんてくだらないと思うし」
というのは、何なんだろう。

ヤクザにも博徒とかシャブ屋とか企業舎弟とかいろいろあり、おたくにもモノレール
おたくとか少女の死体おたくとかいろいろあるが、「おたくヤクザ」というのは、オ
レは生まれてこの方初めて見た。
ヤクザとかおたくとか以前に、とにかく人間としてダサイのである(平川さん流に言
うと、なんたって野暮天なんだよ、か)。

あんまり気分が悪いので、ほんとうは編集部に出なあかんけど、仕事をサボって酒でも飲みに行こう。雨の休日の街も良いもんだから。

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2005年05月01日 20:12に投稿されたエントリーのページです。

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