4月3日(月)
六本木ヒルズで観た光景に喚起されたソフィア・コッポラ監督作品の『ロスト・イン・トランスレーション』について、ミーツの映画コラムを書いていたんだけど、書きながら退屈してきたのでソファに寝転がってゴロゴロしていたら、サイドテーブルの上に港町酒場の[ムーンライト]の宍戸夫妻から借りたDVD『THE SUN』を見つけ、そっちの話に書き直した。
といっても、作品そのものの話ではなくて、『THE SUN』が国内では上映されないという話を書いたのであって、作品紹介になってないのである。である、っていいのか?
『THE SUN』は、天皇ヒロヒトをテーマにした、ロシア、イタリア、スイスの合作映画だ。しかし、「人間」天皇を描こうとした作品だからか、知る限り日本では一般公開されていない。聞くところ(ネットだから読むところか)によると、東京の「社団法人外国特派員協会」にて会員とそのゲスト向け限定(一般入場者なし)で試写会が行われたとかなんとかかんとか。作品広報活動にも圧力(なんの?)がかかるとかかからないとか。まあ、どっちにしても、そういう話題がどこからともなく湧いてくる作品なんである。
というわけで、どうやら一般の試写室では上映されていない。となると当然ながら試写室からは言わせてもらえないからして、ワタシの映画コラムのテーマ「試写室の外から言わせてもらえば」にドンピシャ。というよりも、試写室の外からしか語れない作品なのだ。というあたりをどうたらこうたらと書いて原稿を放り投げると、担当デスクのミゾさんにはアイヨと受け取ってもらえたのだが、一般上映されないには原因があるだろうし、その原因を掘り下げてグダグダやってるワタシは本当に「言わせてもらえる」のかしら? と思いつつ、本当はあまり気にしていないんだけど。ちなみに、昭和天皇をイッセー尾形が、皇后を桃井かおりがってのが、日本映画界ではありえない配役だから、観る前から面白いんだけどなあ。
この『THE SUN』は、国内では入手が困難で、国内アマゾンでも取り扱いがないようだけど、UKアマゾンなら20%オフの15.99£で買えちゃいます(送料がかかるけど)。ワタシはこのDVDを、栄町の[ムーンライト]店主の宍戸さんにお借りした。「…(上に書いたようなこと)ていう映画があるねんけど観る? にやにや」「わー貸して貸して! ワクワク」。…という風に、[ムーンライト]はマーヴィンから永ちゃんの音酒場でもあるけれど、芋焼酎のソーダ割りに映画や本の話がついてくる井戸端酒場でもある。そして、最近の合言葉は「憲兵が来た〜!」である。
奥さんのヒサミさんは相当な「本読み」で、元大手外資のバリバリウーマンなだけあって和訳されていない英語本なども読んでいるから、守備範囲がベストセラーランキング的でなくて面白い。そういえば、雑誌『クーリエ・ジャポン』の創刊も彼女に教えられたのが最初だった。かたや店主・宍戸さんからは、街でしか伝播されない「そういえば」の話がいつも縦横無尽に連射される。そういや「きっこのブログ」といったネット情報もハヤかった。いや、「情報」とかいう物言いでは井戸端なニュアンスが消えそうだが、つまりこの港町酒場は街の生活をふくよかにする話に満ちているということだ。こういうのを「情報」と言ってしまうと、途端にその面白さが半減する。
正しい街の姿と同様に、井戸端酒場の話題は、日の当たる場所もあれば陰の部分もあって、たいていのことに言えるが暗部にこそ真実はあるし面白いもんだから、必然的に「ワルい」話ばかりしている。神戸は母体が黒い話に満ちているので、そっちにも事欠かない。聞くもの話すのもやってられへん的話が多いのにどきどきワクワクするのはなんでだろう。
そういえば、赤提灯の居酒屋なんかでも、ネクタイ姿のおっさんが嬉しそうに下ネタを連発していたりするが、あれは下ネタそのものが面白いのではなくて、下ネタが思いのままにできるという自由が嬉しいのだろう。子どもが悪い言葉を覚えだし、例えば、母親が嫌がるのを見て何だか興奮して嬉しくなって「ウンコ、ウンコ」と何度も繰り返すのと同じだ。つまり子どもなりの自由の謳歌。ネクタイのおっさんなりの自由の謳歌。ちっぽけだ。でも、ワタシはそんなちっぽけな自由が大好きで、街のウンコを発見すると嬉しくなって港町酒場に足が向く。ということは、ワタシも宍戸さんもヒサミさんもウンコの自由の謳歌しているだけなのかもしれない。なーんだ、ウンコかよっ。…という話すら楽しい。ウンコだ、ウンコかかってこーい。ウンコの自由を民衆に!