この齢でおたふく風邪になるとは思わなかった。
息子のおたふくが十日間の闘病を経て治ったばかり。
おたふく風邪ウィルスの潜伏期間は約二週間なので、
息子からウィルスをもらったとすると計算はドンピシ
ャである。
なので前夜に職場で「だるいなあ。なんだか耳の後ろ
がちくちくするなあ」と思った時にはすぐにおたふく
を確信した。
でも万一違っていると恥ずかしいので、J薗くんだけ
に「ひょっとしたらおたふくかもしれないから、その
時は一週間以上休むね」と耳打ちして帰宅。
翌朝はもう顔の輪郭が細野晴臣になっていた。
「おたふく」というからには頬が腫れるのかと思った
ら、耳の後ろのエラのところが腫れるのである。
病院に行って「あのう、おたふく風邪みたいなんスけ
ど・・・」と申告すると、受付の人はぎょっとした顔で掌
を上に向けて「あなたが?」というジェスチャーをし
、私がこくりと頷くと「こ、こちらでお待ちください
」と狼狽した様子で私を別室に連れて行った。
その狼狽が「いいトシしておたふく風邪?ほんとに?
」という意味なのか「ちょっとお、他の人に移さない
でよね」という意味なのかは分からないが、スペシャ
ルな接遇を受けてちょっと非日常的な気分を味わう。
痛み・発熱とも比較的軽かったのだが、顔の輪郭は細
野晴臣を経て南伸坊にまで至り、また細野晴臣に戻っ
て病は収束した。
お医者さんはコホンと咳払いをして髄膜炎などの恐ろ
しい合併症、特に睾丸炎について縷々説明してくださ
ったのだが、幸いそれもなかった。
このあいだ十日間。
ここぞとばかりに仕事をすべてほっぽり出し、たまに
職場に電話を入れて今にも死にそうな声を出し、時代
劇を見て本を読んでごろごろ寝てばかりいた。
だって感染病患者なんだもーん。てへっ。
おかげで限界に達しつつあったストレスと疲労が随分
と排出されて楽になった。
おたふくさまさまである。南無南無。