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芝居者の栄光と悲惨

では歌舞伎公演の稽古はどんな具合に行われるのか。

1.本読み
みんなで台本を声に出して読んでみる。
字の読み方を確認したり、言いにくい台詞を直したり、相手役との台詞の受け渡しを確認したりする。
新作やそれに近い復活狂言などの場合を除き、通常の歌舞伎ではほとんど行わない。

2.立稽古(たちげいこ)
立って動きながら台詞を言ってみる。
自分の居場所やしぐさ・移動のタイミングなどを確認する。
台本上は全く問題がなくても、いざ立ってやってみると、台詞と動きがうまく合わない、誰と誰との動線がぶつかってしまう、などの細かい問題がちょくちょく発生する。
ベテランの役者さんの「こうすりゃいいんだよ」という本当にちょこっとしたアドバイス(手の甲を下に向けるとか30cm右に座るとか)で色んなことがスルスルとうまくいくことがあって面白い。「おばあちゃんの知恵袋」という感じである。

3.附立(つけたて)
さらに音楽が入る。
BGM演奏の開始・終了のキッカケ(タイミング)、効果音などを調整する。役者さんからは「バッタリでゴン」(効果音付きで見得をしますから、そこで鐘の音を入れてくださいね)、「ニュウ消しでつきなおして」(なんとなくフェードアウトにしておいて、次のキッカケで改めて演奏を始めてくださいね)、などの注文が出る。

4.総ざらい
稽古場で本番どおりに通してやってみる。
この総ざらいのやり方がなかなか面白い。
一日の興行を模した儀礼的な構成によって行われるのである。
総ざらいが始まるときには、ふだんの興行で開演30分前に鳴る「着到」という囃子が奏されて、それからお芝居の稽古が始まる。
すなわち一日のはじまりを示しているのである。
で、お芝居の稽古がすべて終わると、すかさず頭取さん(その興行の楽屋を仕切るマネージャー)の「とうざーい、まあず今日はこれぎりー」という口上が入り、チョンチョンチョンとキザミの柝に合わせて一同拍手。これすなわち一日のお芝居がハネたことを意味している。
続いて、終演後のお客様がお帰りになる時に鳴らす「打ち出し」の太鼓を打つ。
打ち出しを聞いて最後に「よーっ、よよよいよよよいよよよいよい」の一本締め。
一同お辞儀をして、稽古場での稽古がめでたく終了となる。
お芝居の稽古のあいだ座布団に座っていた劇場側スタッフは、稽古終了からの一連の手順の間は座布団をすべってはずしているのがしきたりである。
「これからいよいよ皆様のお力で興行を打たせていただきます、何卒よろしく」という出演者への表敬であろうか。それとも芝居の神様への表敬であろうか。よく分からない。
というように、一日の興行開始から、終演してお客様がめでたくお帰りになるまでを、全体の段取りとして模倣し再現するのである。
一種の予祝儀礼と申しましょうか。面白いでしょ。

5.舞台稽古
舞台上で全くの本番どおりにやってみる。リハーサルのこと。
舞台の寸法を体で確認するとともに、衣裳・大道具・小道具などの確認・変更を行う。
屋体(建物)の昇り降りなど稽古場とは勝手の違うことが色々あるし、特に大がかりな立ち回りや舞台転換のある時は、危険のないよう念入りに確認を繰り返す。

とまあこういうような稽古を、公演直前の数日間行う。
ご出演者の皆様はもちろん、わたくしどもスタッフにとってもまことにあわただしい日が続くのである。
で、なにが哀しいってあなた、ちゃんとしたおひるごはんが食べられないことである。
連日コンビニのパン(ならまだ良い方だが)とともに、芝居者の哀しみを噛みしめては嚥み下すのである。しくしく。

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2005年05月06日 21:32に投稿されたエントリーのページです。

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