「社長ゲーム」に鉄槌
野田秀樹の「走れメルス」を観る。
芝居自体はよく分からない。
ことばが横滑りしながら世界を紡ぎだし、あちら側とこちら側、二つの世界が向かい合い重なり合う。
野田作品おなじみの仕組みだが、全体に青さというか若さを感じる。
それもそのはず、初演は1976年。
私が小学校一年生のときに21歳の天才野田秀樹がこんな芝居を書き演じていたのかと思うと慄然とする。
野田秀樹の女装と古田新太の熊川哲也跳びも眼福だが、ふかっちゃん(注:深津絵里)の美貌と美声にすっかり恍惚の人となる。
いやー。きれいだなー。
「踊る大捜査線」と「チョコラBB」でしかふかっちゃんを知らない人は30日までにシアターコクーンに駆けつけるべし。運が良ければ立見券が買えるかも。
職場で30~40台の中堅社員を対象にした「フォローアップ研修」なるものを受ける。
まず最初は「会社ゲーム」。
五人一組で、社長が一人、課長が二人、ヒラ社員が二人。
ゲーム中の会話は禁止。
全員に四枚の絵カードとメモ用紙が与えられ、コミュニケーションはこのカードの交換(一度に二枚以内)およびメモのやり取りによってのみ行われる。
それぞれが持っているカードはお互いに見ることができない。
社長は課長二人とだけメモ・カードのやり取りができる。
課長は社長および直属のヒラ社員一人とだけ、ヒラ社員は直属の課長一人とだけ、メモ・カードのやり取りができる。
そこで社長にはゲームの目的を書いた「指示書」が与えられ、それを一番早く達成した会社が勝ち、というもの。
実はゲームの目的は「各自が同じ絵柄のカードを四枚そろえること」なのだが、課長とヒラ社員には知らされていない。
さて、どうでしょう。
優勝チームの社長が出した第一の指示は「各自の持ち札を報告せよ」、続いての指示は「○○さんは××のカードを集めよ」だった。まあ最短距離を行く適切な指示といえよう。
二位のチームは気の利くヒラ社員から「これはもしかして同じ絵を四枚集めるゲームなのでは?」という本質的な発言がなされたにもかかわらず、社長が「では果物のカードを持っていますか?」などと対応を誤ったために遅れをとった。
ドンケツチームではそもそも社長がゲームの趣旨を理解できていなかったため、他の四人がほとんど何もしないまま時間切れになった。ちなみにこの社長はゲーム終了時に七枚のカードをもっていた(『交換』だっちゅーに)。
講師の方はこのゲームを通じて「仕事の目的は関係者全員が理解して共有しましょう」「部下は『自分に何ができるか』を上に積極的に問い、また知らせるようにしましょう」とかそういうことを言いたかったらしい。
それから「ネガティブ・ポジティブゲーム」。
他人の発言に対してネガ・ポジ両方の応対をしてみましょう。
「あの映画面白かったよね」
「そうだね、女優さんもきれいだった」
「部長っていい人だよね」
「そうだね、責任感があるしね」
これがポジの例。一方ネガの例は、
「あの映画面白かったよね」
「全然。大体ストーリーが平凡だよね」
「部長っていい人だよね」
「そうでもないよ。結構腹黒いよ」
講師の方はこのゲームを通じて「他人とのコミュニケーションはポジティブな返答から始めた方がお互いに気持ちいいよね」ということを言いたかったらしい。
それから。
まあいくつかそういうゲームめいたものが行われた。
この研修を通じて私の得た最大の結論は「わが社の先行きはもしかしてかなりヤバいのではないか」であった。
十数人の勤務時間(のべ約60時間)を犠牲にし、大枚の金子をかけてまでこんなショボい研修を行わなければならない理由は私にはわからない。
唯一思いつくのは「研修を実施した」(=何もしてないわけではない)という事実が担当の部なり課なりの事業実績(と書いてアリバイと読む)として残るということだけである。
そして「会社ゲーム」みたいなチャチいゲームを難なくこなせず、あまつさえ理解するだけの能力がない人や、「ネガ・ポジゲーム」みたいな自己啓発ともいえない便所に貼ってある一日一言カレンダーの文句みたいなものに「へえ」と感心している人が結構いるということ。
これらの人々が、実はすべてを呑み込んだ上で場が盛り上がるように大人としてわざとそう振る舞っていることを心から祈りたい。
よそ様の会社でもやってるんだろうか。こういう研修。
だとしたらいっそ研修の会社に転職した方が儲かるかしらん。