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 10月17日。マディソンでの暮らしも三か月が過ぎ、いろんな国の友人が増えるにしたがってアラブ人だけではなく、私の中で中国人に対する見方も変わったことの一つだ。マディソンにも中国人はそこら中に居るのだが、そんな彼らの中には日本が好きで日本語を話せると言う中国人がとても多い。韓国人の中にもたまに学校で日本語を選択した、という人がいるが、中国系のその率はとても高い。日本のアニメが好きで、日本のファッションが好きで、日本のアイドルが好きで、日本食が好きで、日本がとにかく大好きだと言われることがよくあるのである。中には「日本の戦国時代が好きで、織田信長が特に好きだ。」と言ってきた人もいるので、とりあえず「ああ、織田信長ね、死んだよね。」などと真顔で答えたこともあった。
 
アメリカに暮らしていると日本文化のすばらしさを再確認することがあるが「とにかく日本がだーいすきだ!」とまで言われると悪い気はしない。ただただ、いい子たちだな…と感じてしまうのである。そして彼らに褒められれば褒められるほど私は日本の独特の文化が一層誇らしく、好きになっていくのである。けれど、そんな中国人たちに対して私は一つだけ思うことがある。それは、彼らが揃いも揃ってイングリッシュネームを名乗ることである。私の知っている中国人は、ペネロペ、エレン、ジェシー、キャサリン、トム、ジャクソン、サイモンとくる。どう考えてもサイモンという顔ではない。韓国人もたまに、アイリーンやレイチェルという名前を名乗る者がいるがこれらはどちらかというと韓国人の中では少数派である。日本人だと、四文字以上だと短縮して名乗らされることがあるが(例えば、ナオユキだとナオ、マサフミだとマサ。)イングリッシュネームを名乗るということなどまず無いだろう。
 
スカイラーとジャクソンという男女の上海から来たペアも、日本が大好きな大金持ちの中国人だ。もちろん、スカイラーもジャクソンもイングリッシュネームで、スカイラーという名前は「イングリッシュネームドットコム」で2ドルで購入したものだそうだ。日本が好きで二回旅行したことがあると言っていたスカイラーは、日本の芸能ニュースは私よりも詳しい。好物は納豆。そんな彼女にネイティブのアメリカ人が「その名前はとても珍しいわね。覚えやすいわよ。」と誉めると、「この名前はアメリカ人によくある名前って書いてあったから購入したのよ。」とスカイラーは答えていた。「どうして英語名を名乗るの?」と私が聞くと、「中国名は発音が難しいからよ。」とスカイラーは教えてくれた。しかしながら…と私は思うのである。アメリカ人が日本に来て、「僕は太郎です。」「私は京子です。」と名乗っていたら、とても面白くないだろうか。発音が難しいのなら、せめてワンタンとか、ホイコーローとか、中国っぽい名前にしたらいいのに、なぜスカイラーだのジャクソンだの、パトリシアだのダニエルだのを名乗るのだろう。

「ねえねえ、日本の自動販売機って私、大好きよ。」イングリッシュネームについていぶかしげに考えていると、スカイラーが話しかけてきた。ジャクソンも自動販売機の写真を見せてくれたので、「ああ、これね、私もよく買うよ。」と訳の分からない自慢をする。「いいわよねー」羨ましそうにするスカイラーとジャクソン。試しに私が「コンビニに行ったことあるかい?」と聞くと、「日本のコンビニは本当にすごいわ!」とスカイラーがまた目を輝かせて答える。「コンビニのおでんはアメイジングよ。」とスカイラーが言い、ジャクソンは「あそこのおにぎりはとても美味しい。」と言うので、「じゃあ、肉まん食べたことある?あそこの肉まんは美味しいんだから。」と調子に乗って私は言った。「そうね…。」と、スカイラーは少し考えて答える。そして言いにくそうにこう言った。「肉まんは中国でも食べたことあるから…。」日本文化を礼賛されることにすっかり慣れてしまい、肉まんが中国からきたものだということを失念した私はただの恥ずかしい日本人だったのである。