7月2日
その日はいつもお昼ご飯を用意してくれるすみ子さんがいなかったので、午前中の診
療が終わった後でコンビニへ行き、てんぷらどん兵衛、梅のおにぎり、サラダ、プリ
ンを買って来た。
てんぷらどん兵衛では、熱湯を容器に注いで4分経過後に麺の上に別包の天ぷらをのっ
けるという「後のせサクサク」方式が推奨されている。
しかし僕は「先のせぶわぶわ」が好きなので、容器にお湯を注ぐ前に、粉末スープと
ともに、天ぷらを乾燥めんの上にのせることにしている。
お湯を注いでから4分経ってふたを開けると、小さかった先のせ天ぷらは水分を吸って
器の大半を占める程大きくなっており、ちょっとゴージャス。
昔の即席天ぷらそばは、すべてこの「先のせぶわぶわゴージャス」方式だった。
即席麺でもサクサクとした天ぷらが楽しめるということを売りとして、どん兵衛は後
のせ方式を採用したのだろうが、この天ぷらは確かにサクサクとしているけれど、そ
れだけで食べても別段美味しいものではなくて、この天ぷらはそばつゆを含んで初め
て旨くなるのである。
後からのせられる天ぷらにしてみても、湯気がもうもうと立っているそばの中に、い
きなりぽこんとのせられるのは、どうも居心地が悪そうだ。周りは熱々なのに、自分
だけ常温なのだからそれも当然の話である。
それは、例えて言うなら、大いに盛り上がっている飲み会に途中参加していきなり
『YMCA』を踊り付きで歌わされるようなものであって、実際、後のせ直後の天ぷらを
かじってみると、「まだ素面なんだから、いきなりヒデキは勘弁してよ」という天ぷ
らの声が聞こえてきそうである。
そのような事を考えながら熱々のどん兵衛をすすっていたら、おじいさん先生の家に
すみ子さんがやって来た。