新春備忘録

 第二部 水に流して流される

 備忘録ということですが、私も忘却力では若い者には負けません。一方こうい
う人間は、脈絡なくつまらないことを、突然思い出したりします。少し前に流行
った言葉が妙に気になったりもします。
 米百俵の話を覚えていますか、2002年当時の小泉純一郎総理大臣が所信表明演
説に引用してから一気に有名なった物語です。内容の真実性や総理の引用の適切
さはあえて議論しませんが、そのとき多くの私たち日本人の心に刺さったことは
間違いありません。
 それから30年もしない昨年、別に飢饉でもないのに私たちの多くは、備蓄米の
放出を支持しました。その結果、昨春100万t弱あった政府備蓄米は三分の一弱し
か残っていません。しかも大半は、2020年21年産のいわゆる古古......米。備蓄の
うち新しい方から食い散らかしたわけです。事情はいろいろあるにせよ、なんだ
か意地汚い話です。米百俵の精神とどこへ行ったのだ......などと「オールドメデ
ィア」のラスボス、新聞のコラムあたりがボヤくか思ったのですが、どうやら何
もおこりませんでした。米百俵どころか備蓄米という言葉さえ、みんな忘れてし
まったみたいです。
 それにしてもなぜ、古古古......なんでしょう。いくら農業技術が進んだとは言
え、収穫直後から古古古古米になる品種はありません。政府が新米を通常は食用
にしない古古古......米になるまで保管したからです。毎年の備蓄量を増やして、
せめて古古米ぐらいのときに、海外での飢餓救済や工業用に回すのが普通のやり
方だと思うのですが。購入量は増えますが、使わなければ新しいうちに償却でき
るのですから、それほど経費には響かないでしょう。農林大臣が、備蓄の量と質
を確保するより目先の米価を下げることを考え、あまり批判を受けてはいません。
今後、米百俵の話が復活することがあるのでしょうか。いやないでしょう。


米百俵物語,米百俵スクールプロジェクト
http://kome100sp.com/story/


小泉首相の所信表明演説(米百俵の引用),小泉純一郎
https://www7a.biglobe.ne.jp/~jigenji/koizumi.htm


農水省は11月12日、同日時点の政府備蓄米の在庫状況を32万tとの見込みと公表
した。農水省
https://www.jacom.or.jp/kome/news/2025/11/251113-85698.php

 見栄を張る「首長」族

 前回お話しました原発は、いくら公共性が高いと言っても民間企業である電力
会社の話です。福島第一の事故で東電株は紙切れになりました。今後の原発の安
全性については、曲がりなりにも、株主によるガバナンスが機能することが期待
できます。ところが、純粋に税金だけで動いている国や自治体となると、どんな
無茶をしても選挙で落ちる以上の形で責任を取らされることはありません。
 バラマキで破綻が確実であっても、それが数十年以上先の話だと、「なんとか
なるさ」と考えるのが、私たち日本人の特性です。逆に、目の前でクラッシュが
おこっても、数十年以上前まで遡って責任を追及することはありません。何でも
水に流す国民性だからでしょう。
 覚えてますか東京五輪(2021)。都は莫大な損失をどうするのでしょうか。今
でも日々それが膨らんでいます。金利の話をしてるのではありません。レガシー
という名の金食い虫が元気に活躍しているからです。
 たとえば、水泳会場となった東京アクアティクスセンター。ここにはメイン・
サブ・飛込用と、3つのプールがあります。メイン・サブはいずれも長さ50m
幅25m深さ3mとなっていて、競泳・水球・アーティスティックスイミングの
全てに対応できる公認規格です。
 とんでもない代物だと思います。国際基準の公認規格では、競泳用のプールは
深さは2m以上あればよく、水球・アーティスティックスイミングは長さ約30
mで十分です。だから、メインを競泳用(深さ2m)にサブ水球・アーティスティ
ックスイミング用(長さ30m)にすれば、30%以上水量を減らせます。温度や
水質を管理しなければならないことを考えると、五輪以降の維持経費を大幅に削
減できたはずです。
 実は、学校プールの維持管理に関わったことがあるので身にしみているのです
が、水質は一度悪化させてしまうと、システム全体のメンテが必要になるので、
使い続けるつもりなら水の循環を長期間止めることはできません。
 それにしてもなぜ、競泳用プールを3mにしたのか......どうやら、深いプール
ほと波の発生が少なく、良い記録が出やすいことが理由だと言われています。実
際、競泳37種目中、世界新記録が6とまずまず多めの大会だったと言えますが、
歴史の浅い種目も多く自由形での世界新はなし。どこまで水深に効果があったの
か不明です。
 この東京アクアティクスセンターが出している赤字は、年間6億円以上だそう
です。辺鄙なところで、最寄り駅から無料の送迎バス(これまた赤字の原因)が
出ていますが、都民が気軽に泳ぎに行ける立地ではありません。旧東京オリンピ
ックで使われた代々木体育館のプールを復活させれば、こうしたレガシー経費も
不要だったはずです。今からでも、せめてプールを部分的に埋め立てて、公認規
格ギリギリまで縮小してはいかがでしょうか。
 一方、さらに巨大な赤字が出そうな国立競技場の収支計画は不明。プールの水
を気にしている場合ではないのかも知れません。後腐れ無く、閉会後は全てを更
地にもどしてしまう関西万博の「潔さ」さえも、光って見えます。
 ちなみに、五輪自体の赤字は2.3兆円以上。東京から地方への税の再分配問題に
せよ、ゴミ袋有料化の話にせよ、「都にお金がないからダメ」とは言い出せない
でしょう。


東京アクアティクスセンター,東京アクアティクスセンター
 https://www.tef.or.jp/tac/index.html


東京オリンピック【競泳】世界新記録、五輪新記録まとめ, Excalibur(エク
スカリバー)水泳教室

 https://excalibur-personal.com/1474/


東京オリパラ「負のレガシー」が重すぎる 7つの恒久施設の維持費は年間50億円,
AERA
 https://dot.asahi.com/articles/-/67041?page=1


◆宮本勝浩 関西大学名誉教授が推定 ◆東京オリンピック・パラリンピックの経
済効果と赤字額〜経済効果は約6兆1,442億円。一方で、組織委員会や国、東京都
の赤字総額は、約2兆3,713億円〜,宮本勝浩
 https://times.sanpou-s.net/detail/pid-31143/

 不発爆型レガシー

 赤字と言えば、一番恐ろしいのがミャクミャク界隈です。不気味なのは、「万
博は黒字だ」としながらも、あまり維新の連中が騒がないことです。彼らの「上
品な」文化を考えれば、鬼の首でも取ったように大言壮語しそうなものですが、
妙に静かです。
 そもそも、公的イベントでの黒字の定義はなんなのでしょう。まず、設備投資
とも言える建設費は滞りなく瓦礫に化けつつあります。それと比べれば経済効果
なんてほとんどないでしょう。誰かが万博に行ってお金を使えば、その分は他で
の消費が減ります。「万博で遊ぶために一生懸命働くぞ」という人は皆無だから
です。せいぜい、万博に行くために来日した少数の外国人たちの、インバウンド
消費が経済効果と言えるぐらいですか。
 知事や市長がどや顔で言う「黒字」は、チケットの売り上げが会場経費の合計
を上回ったという意味でしょう。けれども、よく指摘されることですが、会場の
警備費や市内あちこちにあった宣伝用の飾り(粗大ミャクミャクなど)やイベン
ト。大部分は博覧会協会とは別会計で、膨大な金額になるはずです。建築費の未
払いも踏み倒す気でしょう。仕送りで衣食住まかなっているくせに、下宿の家賃
を滞納している大学生が「今月はバイトでいっぱい稼だよ」と無邪気に自慢する
ようなものです。
 「黒字額」の公式発表は来年(2027年)とのことです。変だと思いませんか。
「総選挙だ!、大阪名物同時選挙だ!!」などと騒がしい今年(2026年)。「逆
風の中で上げた奇跡的な成果」をあえて自慢しないほど、維新という政党は奥ゆ
かしくなったのでしょうか。あるいは、誤魔化し切れないぐらいの結構な額の赤
字を、しっかり出せた自信があるのではないでしょうか。
 今後、数年でおそらく維新という政党は、少しずつ自民党に削り取られて消滅
するでしょう。その間に内部告発などで、いろいろな形で残っている「巨額の債
務」は、知らず知らずのうちに大阪府市民と日本国民が背負うことになりそうで
す。
 この件は今年も追いかけるつもりです。

 八潮市の陥没

 昨年(2025年)、クマ騒動と入れ替わるように話題にならなくなった八潮市の
道路陥没。現在どうなっているのか。県が膨大な費用を投じて復旧をしているよ
うですが、いまだに周辺地域では悪臭が漂っているとのことです。
 気になるのは、現場付近で駐車車両のエンブレムが錆び始めているとの報道で
す。エンブレムとはいわば車の顔です。みすぼらしい姿をしているとメーカーの
威信に響きそうですから、常に排気ガスにさらされていても耐えられるように作
られているはずです。実際、廃車以外でエンブレムが錆びているのを見たことは
ありません。


八潮市の事故が示す下水道の危機...インフラを維持・拡張する時代から"しまう
"発想へ、下水道の「可視化」を急げ,Wedge(ウェッジ)
 https://news.yahoo.co.jp/articles/2366b51adee3c2b40c9dd619df5062c249d560e2?page=2


八潮市道路陥没事故から約1年 "戻らぬ日常"住民らの苦悩...続く交通規制や
「下水のにおい」「さび」報告も【バンキシャ!】,日テレNEWS NNN
 https://news.yahoo.co.jp/articles/3709cc871e929b31f6dc8b4947dfac4b1fa98733?page=2

 犯人は硫化水素なんでしょうが、かなりの高濃度で付近に漂っているはずです。
建物や送電設備などのインフラは大丈夫なのでしょうか。そして何より健康被害。
近隣住民に呼吸器系の病気が多発したら、誰がどう責任をとるのでしょう。責任
範囲やら因果関係も大議論になりそうです。
 休業補償やら不動産価値の低下など、損害賠償の話にはなかなか進んでいない
ようですが、たとえば原発事故を前例にして計算すると、こちらも膨大な金額に
なるはずです。今後のインフラ事故の「モデルケース」になるわけですから、自
治体としても安易に大盤振る舞いはできません。
 もし、水道事業が民営化されたら、こういう場合は事業者が倒産して全てチャ
ラになるのでしょうか。原発事故同様、広大な地域が住めなくなりますが、人口
も減り空き家が増えているのですから、多くの日本人にとって、他人事である限
り仕方のないことなのでしょう。
 あえて恐ろしいことを書きますが、これはテロにも十分に使えます。マンホー
ルから忍び込んで爆弾を仕掛け、下水本管の天井を破壊します。数日で土砂が流
入して道路陥没がおこり、修理には膨大な費用と日数がかかります。爆発の規模
が足りなくても硫化水素が仕事をしてくれますから、陥没は数年後のお楽しみで
す。
 以前、山岳地帯で高圧送電用の鉄塔を倒す「イタズラ」がありましたが、こん
なのも含めて、日本中にある細かいインフラ設備をいっせいに破壊したら、我が
国の経済活動は即死。数人の工作員だけでできそうですから、警備の厳しい原発
や新幹線を狙うより効率的です。台湾有事は基本的に外国の話。「そんなことよ
り」よほど深刻な潜在的脅威だと思うのですがいかがでしょうか。

 五輪、万博そして道路陥没。何の関係もないようですが、共通しているのは膨
大な公金が成果の少ないことに使われていて、それに対する批判が弱々しく、し
かも長続きしないことです。時間がたてば全てを水に流してしまう私たち日本人
の性癖が、最悪の形で現れた問題です。
 けれども、根本的な手当を先送りしたせいで、あちこちで被害の出血がチョロ
チョロと続いていては、いずれ、国全体がそれに耐えられるなくなるはずです。
あと20年もすれば若者たちは、空っぽの百俵を眺めて平成・令和の有権者を呪い
ながら、ため息をつくことになるのでしょう。
 これは警告ではありません。なぜならば、多分何をやっても、いまさら間に合
わないことだからです。覚悟するしかありません。