新春備忘録

 明けましておめでとうございます。昨年の10大ニュースと思いましたが、うん
ざりするほど話題になったトランプ・ミャクミャク・クマ・サナエ的な話を、も
う一回しても仕方がありません。ここはひとつ私らしく、忘れられていても火だ
ねが残っていて、今年あたり大ごとになりそうな話を集めてみることにしました。

第一部 終わらない福島の負債

 最初は原発にかかわる昨年末の2つの報道についてです。
 ひとつは、国土地理院が昨年の調査で、能登半島の志賀原発の下に活断層を新
たに発見したとのことですが、北陸電力は「航空写真から何がわかるのか」と、
怒り狂っています。つまり、活断層の有無についての論争です。
 もうひとつは、昨年末の日経新聞の一面トップ記事に、柏崎羽倉原発の電気を
使ってデータセンターを立ち上げるという構想が出ていました。海外でも、マイ
クロソフトやグーグルが原発とデータセンターを併設するというプランが報道さ
れましたが、果たしてうまく行く見込みがあるのでしょうか。東電自身は慌てて
取り消していますが......
 ところで、そんなことより、福島の廃墟原発はどうなっているのでしょうか。


 東電、新潟にデータセンター 大災害に備えリスク分散,共同通信
 https://www.47news.jp/13636493.html

 「東京電力、柏崎刈羽原発の周辺でデータセンター開発 AI 需要に的」の報道
について,東京電力,
 https://www.tepco.co.jp/press/news/2025/pdf/20251222j0101.pdf

 活断層をめぐる不毛な理論

 活断層から行きましょう。これまでにも何回か書いたことですが、基本的な論
点を二つ押さえておきましょう。まず、「断層が動くと、原発はなぜ危険なの
か」、そして「活断層とは何か」です。
 活断層の上に原子炉があるとなぜまずいのか、地震の揺れはあまり問題ではあ
りません。例えば、阪神淡路大震災のとき大きく動いた淡路島の野島断層。直上
の古い木造家屋が真っ二つに裂けても、倒壊していませんでした。一方、震源か
ら何十kmも離れた神戸市内の激震地では、鉄筋コンクリート造のビルが軒並み
全壊していました。被害の大小を分けたのは基本的にはその地域の地盤で、もと
もと田んぼだったような軟弱地盤のあるところで大きな被害が出ています。活断
層の近くがよく揺れるとは限らないのです。
 当たり前ですが世界中の原発は、十分に安定した岩盤の上に作られています。
よって、対応できないような地震は想定されていません。つまり、揺れないこと
になっています。まあ、地震国で原発を動かすなら、どこかで割り切らないと仕
方ありません。地震そのものによる原発の大事故も、なかったことになっていま
す。
 けれども、福島での原発事故の最初の原因は、津波ではなく地震の揺れそのも
のだと私は考えています。ちなみに、うっかりこの分析を原発推進派の「アゴラ」
に書いた私は、社長の逆鱗に触れ「永久追放」されました。よほどのタブーなの
でしょう。この件はまた、この長屋でまとめて記事にしようかと思っています。
 それでは「安全な揺れ」しかおこらない岩盤の上にある原発が、なぜ活断層を
忌み嫌うのでしょうか。それは建屋などの重要施設の真下で断層運動がおこり、
地面もろともに引き裂かれたらたまらないからです。
 阪神淡路のときに、私自身が調査した神戸市内の例ですが、比較的新しい鉄筋
7階建てのマンションが、断層(なのかどうか厳密には不明)に裂かれて、数cm
ずれたことがあります。同じ事が原発の直下でおこったら、冷却水のパイプ類が
ちぎれていきなりメルトダウンです。だから、国の安全基準でも直下に活断層が
発見されたら、既存の原子炉でも廃炉になります。
 電力会社のほうは必死になって、敷地内に断層があっても、それが活断層では
ない証拠を提示します。けれども、これはかなり不毛な議論です。「活断層」の
学問上の定義は、「今後活動する可能性のある断層」ということですが、これで
は現場では何の意味もありません。今の地球科学では地震予知でさえ難しいので
すから、特定の断層の今後を知るためには、精度の良い占い師が必要になるから
です。
 しかたがないので、「過去一定の期間動いていないなら今後もう動かないだろ
う」という推定で「活」断層かどうか判定することになります。現在の原子力規
制委員会の定義では「約12〜13万年前以降」に活動したものとのことです。上に
書いた国土地理院の指摘に対する北陸電力の反論は、敷地内でボウリングまでし
て地層データから、「断層はあるが、13万年よりも古いものである」と主張する
ものです。ご苦労さんとしか言いようがありません。


 能登半島北部などの活断層図を公開します,国土地理院,
https://www.gsi.go.jp/bousaichiri/afm_koukai_2025.html

 「古い断層だからもう大丈夫」というのは希望的観測でしかありません。全て
の断層は何もない地層が割れるところから始まります。「すべての娼婦もかつて
は処女であった」というわけです。何もないところに、いきなり断層が出来るこ
とさえあるといことは、古い断層が新たな地殻変動で「再稼働」することもある
ということです。ですから、いくら古い断層でも、特に安全とは言えないはずで
す。
 もうひとつ言えば、地上で見える断層はごく一部です。大部分は農地や建物・
道路などの下にあり見えません。地震で地表に断層が顔を出しても、その後に洪
水でもおこれば見えなくなるのが普通です。また、断層は、教科書にあるように
まっすぐに伸びるとは限らず、微妙に曲がったりずれたりすることもよくありま
す。
 ですから、原子炉の直下ばかりを見て、細かい議論をしても仕方ありません。
航空写真でザクっと地形を見て、「危ないんじゃないですか」と指摘した国土地
理院の主張は、理にかなっています。
 北陸電力が「志賀原発は安全だ」と言いたいのなら、2年前の震災直後の原子炉
建屋周辺の様子、たとえばアスファルトの割れや、原子炉建屋内部の状況(画像
がないとは言わせませんよ)を見せていただくのが第一歩です。当然ながら「古
い断層」は全く動いていないんはずですよね。
 また、「もし能登半島地震のときに運転していたら安全に冷温停止までもって
いけたこと」も、シミュレーションででも証明する義務が最低限あります。それ
にしても、地震から2年もたっているのに、なんで再稼働(東日本以来15年動いて
いない)の話が出てこないのでしょうか。建屋内外がグチャグチャになり、もは
や手の付けようがなくなっているのではないことを祈ります。


活断層 かつだんそう ,原子力規制委員会,
 https://atomica.jaea.go.jp/dic/detail/dic_detail_2668.html
引用・発言・名言の非公式解説ノート,ウィリアム・ブレイク,
https://note.lv73.net/william-blake/every-harlot-was-a-virgin-once/

 デブリとデータセンターの関係

 デブリとは何か。東京電力の癌、日本経済の癌、日本国の癌、そして日本列島
の癌です。福島第二原子力発電所の地下に貯まった金属酸化物の塊。強烈な放射
線を放つ、自然界には存在しない880tの「岩石」です。ここからバレーボー
ル一ぐらいの大きさの塊(4kg)をつくって、横に1時間いたら数日で死にます。
机一つ分(40kg)なら即死。豆粒大でも風船に付けて飛ばせば立派な核兵器で
す。
 福島第一廃墟原発地下にあるデブリはもともと原子炉燃料ですから、大量のウ
ラニウムを含んでいます。半減期は約45億年、地球の寿命に匹敵します。無害化
するころには、人類どころか地球があるのかないのかの世界です。苦労に苦労を
重ねてデブリを取り出し、整形し、海水の来ないところに安置できても、それは
ゴールではなく、何十億年単位の長期保存のスタートラインなのです。
 東電は最終処分について、何やら気楽なことを書いています。どうやら普通の
使用済み核燃料などの高レベル廃棄物と同じ方式で、処理するつもりみたいです
が、どう考えても無理です。ただの使用済み核燃料でも受け入れ先がないのに、
こんなものに対応できる処分場は、国内はもとより世界中探してもあるとは思わ
れません。


 取り出したあとの「燃料デブリ」はどうするのか?,TEPCO,
https://www.tepco.co.jp/decommission/towards_decommissioning/Things_you_should_know_more_about_decommissioning/answer-20-j.html

 逆に言えば、デブリの取り出しなど出来っこないことに、よほど自信があるの
でしょう。では、取り出さなかったらどうなるのか、デブリは敷地内に流れ込ん
でいる地下水にさらされて、汚染水を量産しています。
 現在は、ALPSという除去システムを使い、汚染水から大部分の放射性物質
を除去し、除去できないトリチウムに関しては十分に薄めることで安全な処理水
にして、沖合に放出しています。
 ちなみに、「トリチウムは薄めさせすれば安全である」というのが東電の見解
に反対意見も世界中に見られますが、この部分の安全性は科学的に支持できる主
張だと私も思います。では何が問題なのでしょうか。最初に東電の主張を見てみ
ましょう。

「これまで、原子炉建屋への地下水・雨水の流入量を減らすため、地下水のくみ
上げや凍土壁(陸側遮水壁)等、重層的な取組みを実施してきた結果、汚染水発
生量は、対策前の約540m3/日(2014年5月)から、約70m3/日(2024年平均)ま
で低減しています。」

 よく考えてみると頼りないことを言っています。地震からALPSが稼働する
まで1年以上かかっているますが、540立方mもの地下水が流れ込んでいるのに、
敷地から水が溢れたという話は聞いたことがありません。ということは、流れ込
んだ地下水は汚染水になり、地下から海のどこかに漏れ出していたはずです。
「重層的な取組み」とやらで、地下水の流入を防いだとしてもデブリと海を繋ぐ
地下水路は残存していて、デブリ出汁の利いた高濃度汚染水として海に流れ込ん
でいるはずです。この地下水路が有る限りはいくらALPSが頑張っても、潮の
干満などで流入した海水が放射性物質を、地下水路経由で海まで運搬する仕組み
はなくなりません。よって、「低減」しているのは「汚染水発生量」ではなく、
処理をした汚染水の量なのです。
 いまのところ、周辺海域でのモニタリングでは異常が出ていませんが、これら
はあくまでトリチウムを目的にした計測ですから、海底からしみ出してくるはず
の汚染水の影響を、どこまで拾えるのか不明です。
 けれども逆に言えば、事故直後1年以上も高濃度の汚染水が垂れ流しだったのに、
何も問題がおこっていないのですから、ALPSなど実質的には不要だったのか
も知れません。

 いつまでも、もつと思うな、建屋と同情

 原発の建屋がなんとか持ちこたえていて汚染水の流出を最小限にしていますが、
これがいつまでも続くとは思えません。前にも書きましたが1号機の建屋は築50年
以上で、事故後15年間はメンテがされていません。鉄筋コンクリート建物の寿命
は70年ぐらいといいますが大丈夫なのでしょうか。
 原子炉部分の鉄筋コンクリートは、地震、津波、爆発、高熱を経験した上に、
放射線を浴びつつ地下水や海水の流れにさらされ続けています。ですから内部の
鉄筋が錆びていないはずがありません。今後、錆びて膨張した鉄筋が周囲のコン
クリートをかち割りボロボロになり、小規模な地震などをきっかけにして建屋が
大崩壊して、デブリと海を繋ぐ地下水路が爆発的に広がることもありえます。劣
化が進んだ鉄筋コンクリートのメンテはただでさえ難しいので、強い放射線の中
でそんな作業ができるとは思えません。
 つまり事故のせいで廃炉も出来ないのです。どんなに頑張っても、あと100年も
すれば建屋が崩壊し、ALPSも破壊されるでしょう。そうなると大量の放射性
物質が海に流れ込むことになり、世界中から強烈に非難されることになります。
原子炉事故当初には一定の同情がありますが、100年以上前の事故の後始末ができ
ていないとなると、ただでは済みません。
 だから、東電はいつ崩壊するかわからない建屋を指をくわえて見ながら、効果
のはっきりしないALPSを、せっせとこの世の終わりまで運転しなければなら
ないのです。いくら国や他の電力会社がサポートしてくれるとはいえ、こんなも
のを背負い込んでいるのですから、東京電力の経営は苦しいはずです。案外、建
屋が大崩壊して手の付けようがなくなってたと開き直った方が、経営的な意味で
は将来が明るいのかも知れません。

データセンターで一発逆転

 こんな状況ですから、何が何でも収益性が高い原発を動かしたいところですが、
自社で生き残っているのは柏崎刈羽原発だけです。単純に稼働させるだけでなく、
なんとか安定した新たな収益源にしたいところです。出てきたのが敷地内データ
センター構想です。
 実は上の報道、東電自身が取り消しているように典型的な飛ばし記事で、もと
は関係者のプライベートな雑談・放談のたぐいを、記者が真に受けたのだと思い
ます。発電の常識と全く合わないからです。
 そもそもデータセンターの立地条件は、自然災害の少なさ、清廉な淡水、豊富
で安定した電力ぐらいで、それさえ満たされれば世界中どこでもいいのです。言
い換えれば、世界中が誘致競争の相手で、地震国日本は最初から不利です。水に
ついても、少なくとも既存の国内原発は全て河畔や湖畔ではなく海岸にあります。
原発の冷却なら海水でも使えるのでしょうが、精密機械でも同様なのか心許ない
話です。
 そして何より電力です。データセンターに限らず単独の原発に電力を依存して
いるシステムは世界中に皆無です。あえていえば原子力潜水艦ぐらいですか。原
発には自然災害や事故などでの緊急停止がつきものだからです。
 これまで緊急停止自体が原因で停電がおこった話は、国内ではあまり聞きませ
ん。考えてみれば、これはすごいことです。いつどこで大型発電機が停止しても
バックアップできる体制が組まれているわけですから。
 ましてやデータセンターです。停電はもちろん急激な電圧の低下、電源ノイズ
の発生なんかにも脆弱で、なによりも安定性が求められます。
 では、柏崎刈羽原発。あまり知られていませんが、こやつは東日本大震災より
も前の、新潟地震で故障・緊急停止して、やっと再稼働したところで3月11日
を迎えて再び停止、その後、大小不祥事が続いたこともあり、やっと最近、再々
起動の話が出たわけで、不安定性では定評があります。
 もうひとつ、この原発にはデータセンターを作るには向かない特徴があります。
こやつは、東電ではなく中部電力の縄張りである新潟県内にあり、出来た電気は
直接東京方面に送られます。だから、周囲の電力ネットワークからは切り離され
ているはずです。もし地震で発電が止まったら、データセンター用のバックアッ
プ電力はどこから持ってくるのでしょうか。関東の発電所から逆流するように、
はるばる新潟まで運んでくるのでしょうか。
 そうでなくても、データセンターのように大電力を安定的に必要とする施設は、
電力会社泣かせと言えます。貯蔵がほとんど不可能である電気という商品の特殊
性を考えれば、原発の緊急停止に備えて平時から大きな予備電源を用意しておく
のは、かなりの無駄が発生することになります。
 でも、だからと言って、いっぱいいっぱいの運用をしていたら、データセンター
への送電を守るために、都市への送電量を絞ったり、酷い場合には停電というこ
とになってしまいます。停電ならまだしも、データセンターへの送電を守るため
に、原発の運転者が緊急停止をためらうというのも、有ってはならないけれど有
りそうな話です。少しでも原子炉が事故ったら、データセンターも無事ではすま
ないと思うのですが。
 地震国である我が国は、データセンターの設置場所としては最悪の環境なので
す。柏崎刈羽原にデータセンターを作るようなIT事業者は、おそらく存在しない
でしょう。