大きな見落とし 【北陸新幹線 その26】

 実は、次回の「米原ルート」の最近の動きについての記事をまとめているときに、重大な見落としをしていることに気付きました。北陸新幹線の新大阪延伸プロジェクトの最大の問題は、京都での大深度地下工事ということになっています。私自身は丹波山地での山岳トンネルの方がより深刻だと思うのですが、京都盆地内での地下水問題なども重大な論点であることは間違いありません。
 記事をまとめるにあたって、今回、初めて「大深度地下の公共的使用に関する特別措置法(以下;大深度法)」について調べていて......

大深度地下使用法の使用認可を受けた事業,国土交通省,https://www.mlit.go.jp/toshi/daisei/crd_daisei_tk_000014.html

 軽い衝撃を覚えました。1995年施行の法律なのに実施例が4件しかないのです。すなわち【神戸市大容量送水管整備事業(2007年認可;大深度部は約270mのみ以下同様)】【東京外かく環状道路(関越道~東名高速)(2014年;約14.2km)】【中央新幹線(東京都・名古屋市間)(2018年;50.3km)】【一級河川淀川水系寝屋川北部地下河川事業(2019年;2.2km)】の4例です。
 このうち、鉄道や道路といった交通関係の事業は2例しかなく、両方とも大規模な陥没事故をおこした「いわくつきのプロジェクト」と言って良いでしょう。ちなみに残りの2例は送水管工事で、長さ太さとも小規模なものです。つまり、日本列島内で成功例のないものを、地下水豊富でさらに難易度が高そうな京都盆地に持ち込もうとしているのです。
 しかも、この点も見落としていたのですが、大深度での工事は許認可事業です。これだけ反対の多い案件に、国土交通省がすんなりOKを出すはずがありません。
 調布・瑞浪に続いて京都でも事を起こせば、苦労して成立させた大深度法自体に見直しの声が上がりかねません。これは官僚としては悪夢ですから、京都での工事許可申請は門前払いするか、少なくとも徹底的な再調査を要求するでしょう。
 現状では、京都市民や酒造組合向けの説明会すら満足に開けるデータがとれていないのですから、これから大規模な追加調査が必要になります。前例のない工事なのですから、ボウリング調査など、あと20~30本は掘らなければならないでしょう。予算はどこから持ってくるのでしょうか。
 既に反対決議を出した京都市に協力を求めるなら、最低でもデータの公開を拒めなくなり、少しでも問題が見つかればそれで終わりです。仮に(万一)問題のなさそうな結果が出ても、そこから国土交通省の審査です。これだけで数年はかかりそうで、その間、関係者は不許可の悪夢を毎晩見ることになります。
 普通に考えれば、この件だけで小浜ルートが消えても不思議ありません。大問題を見落としながら、散々記事を書き散らかした自分の不明を恥じるかぎりです。でも、少しだけ言い訳をさせて下さい。これまでのメディア報道にも「大深度の前例は少なく、特に成功例が皆無であること」に触れたものは見たことがありません。また、自分の知る限り反対派の議論の中にもありませんでした。おそらく「JRや国がしている事だから、あまり非常識なものではないだろう」という思い込みが、メディアや反対派にもあったのではないでしょうか。間違いなく私にはありました。

 平成の悪法大賞にノミネート

 そもそも、大深度法とどのような法律なのでしょうか。要するに、「土地の所有権を一定の深さまでに限定して、公共性ありと認可された事業なら、その下を無償で使って良い」というルールです。都市部での地価高騰のせいで、大規模な公共事業が事実上不可能なったことが、背景にありそうです。加えて政権与党の弱体化、開発より環境重視の世論でますます大規模公共事業は難しくなっています......この問題を無理矢理解決する魔法が、用地買収不要の「大深度地下法」です。
 ではもう少し、前例である東京調布(圏央道)と岐阜瑞浪(リニア)での工事の現況をみてみましょう。

「東京調布道路陥没から4年地盤補修工事完了のめど立たず」,NHK,https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241018/k10014612981000.html
「町の水が枯れた~リニア沿線で何が起きているのか」,OurPlanet-TV,https://www.ourplanet-tv.org/51428/
 ひどいものです。調布では数十件の立ち退き家屋が出ています。岐阜では、応急処置でしかない薬剤注入による地下水のトンネルへの流入防止すら、危険を理由に断念しています。つまり、原因究明・対策の検討どころか、後始末や被害の拡大防止すら満足に出来ていないということになります。何の対策もしないまま、家屋が密集していて地下水量の多い京都市内で同じような工事をして、同じような事がおこらなかったら、それはむしろ奇跡でしょう。そして、同じような事やもっと酷い事がおこったら、もう誰にも手のほどこしようがなくなります。
 結論として大深度法は現実の危険を無視した悪法で、その悪法に依存した小浜ルートは行政的にも死んだと言えるでしょう。