NYの水先案内人

 ニューヨークのサロン買収の話しをご依頼いただいた美容学校の理事長・T添氏から、
「紹介したいひとがいるんや。日本の石油輸入の要として、長くニューヨークで活躍した人で、H川さんという80歳を超えたお爺さんやけど...」と食事会の設定を頼まれる。
 かなりの美食家だという情報を得ていたので、西宮で最も新鮮なネタが揃う苦楽園の鮨屋にお連れした。内田先生と何度かご一緒させていただいた切り札の一軒である。
 市場の仲買から、お金に糸目をつけず、その時期に揚がる旬の魚が、ネタ箱から溢れているお店なので、細い目をさらにほころばせながら、T添理事長共々、終始ご満悦のH川氏の横顔を眺めつつホッと一安心。
「あなたが、ニューヨークで望むことを全力でバックアップしますよ」と目を細め、静かに笑うH川氏の一言に、私がシンパシーを感じたのは仕方のないことだろう。
「チャンスは、常に人からもたらせる」
 長年、会社を営んできて学んだ教訓が、脳の中でリフレインする。
 少し腰が曲がってはいるが、矍鑠と歩く姿。ほとんど残っていない髪にカラーリングをして身だしなみを忘れず、眼光鋭く自信に満ち溢れた言動。ジャケットの下に、リンゴのマークの入ったブルーのTシャツ。そのいでたちに、初めは違和感を感じたが、息子さんがAppleで Siriの開発に携わった研究者だと知らされ納得した。 
 これはまさにスターウォーズでスカイウォーカーを指導するジェダイ「ヨーダ」そのままだなと独りごちたのを覚えている。
 H川氏の最大の関心事は、クラッシック音楽。それも、ベルリンフィルやウィーンフィルの超一流ソリストとの深い交流。
 ベルリンフィルのフルート主席奏者のエマニュエル・パユー、ベルリンフィルオーボエの主席奏者ハンスイェル・シュレンベルガーなどなど、たくさんのクラッシックの一流ミュージシャンのコンサートに同行させていただいた。楽屋に入れていただき、コンサート後の食事会をアテンドさせていただきました。
 さらりと書いているが、クラッシックファンにとっては夢のような出来事。ニューヨークであのカーネギーホールの楽屋に潜入し、指揮者のグスターボ・ドゥダメル氏とお会い出来たことは一生の思い出となった。
 この詳細は、別の機会に詳しく書かせていただくとして、この水先案人に導かれ、NY郊外のスカースデイルのアパルトマントで、生活をともにしながら、4人の弁護士とお会いし、揉まれ学び、感じたことを順を追って振り返っていきたい。