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2005年10月 アーカイブ

2005年10月05日

だんじり現象学

10月3日(月)

本日発売のAERAに、朝日新聞東京本社の石川さんによるだんじりの小特集が載る。
何とボリュームは6ページ、タイトルは「40代哲学 岸和田だんじり祭で見つけた」である。

9月22日のこの長屋ブログでもチラッと触れたが、わたしの「だんじり本」を読まれた石川さんはこの企画記事のため、わざわざ東京から岸和田に来られ、13日の試験曳きから本祭の3日間にかけてだんじり祭を取材されていた。
曳き出しの朝の午前5時にはすでにうちのだんじりの腰回りのすぐ前に(しかし目立たぬように)陣取って、各団体の長による「祭はじめの挨拶」を聞いていたし、2日間の祭礼行事の節目節目では必ず影武者のように「そこ」にいた。

見開きの2ページ目ど真ん中に、テーラータカクラでのM人一家の写真がでんと映っている。
日常のスナップだが、とてもいい写真である。
大きな座卓が置かれた元店の部屋には、だんじりの写真やポスターが貼られている。
ミニチュアの町旗や町紋入り弓張り提灯、子供用の太鼓まで置いてあるその部屋は、いつもオレやM雄やそのほかのだんじり関係の連中が、遠慮なしに上がらしてもうて酒を飲み、大いにだんじり話をして、20年間コンビを組んでいた前梃子の相棒のM雄など、時には酔っぱらってそのまま横になり朝まで寝ていて、奥さんに迎えに来てもらうことなどしばしばだ(M雄よ、同年会は9日の日曜、M人とこでええんやな。時間だけゆうといてくれ)。

M人に「ええ写真で映ってるど」と電話を入れると「もう見たわい。哲学て、これは難しい内容やのお。岸和田のもんの誰が読めるちゅうねん。せやけどよう書いちゃある、さすがアエラや」といい、「アテでハモ皮とキュウリの酢のもん出してきたら、これなんですか? こんなの食べてるんですか? て言うてたぞ。がははは」と笑う。
東京方面の方は大阪の代表的で気軽な夏の肴「鱧皮と胡瓜もみ」をご存じないのだったのだ。地元ではハモ皮はスーパーでも売っている。

さて話を戻すと、祭をやっている岸和田のわれわれは、だんじりだけで繋がっている社会を重層的に生きていて、会社、家庭といったかつて強固だった共同体のみにもはや帰属せず、だんじり祭が「第3の社交場」として機能していて、そこに現代社会のキー・オブ・ザ・ライフがある。
「社交」というのは石川さんによる山崎正和の『社交する人間』(中央公論新社)からの引用で、AERA記事中には会社や家庭への帰属意識とは違う「生きる術」の軸足が列挙されていて、それがまさに石川さんは「だんじりである」というわけだ。

加えて、
「はたと思う。岸和田のだんじりも現象学ではないか」
といった、もの凄い問いが立てられている。
実はこれがオレがだんじり祭を長年やっていて、さらに内田先生のこの長屋で「だんじり日記」を書いている時にも、常に「書こうとして」のたうちまわっていたことである。
石川さんは書いている。
 フッサールは「真理はない。あるのはそのつどそのつど、ひとびとが了解できる『解』『妥当』だけである」という思想を提示した。
 同様にハンドル、アクセル、ブレーキをそれぞれ別人が操作するだんじりの遣り回しに「正解」などない。
 あるのは「正解という確信」だけである。
 どの交差点で、どれだけの速さで突入すればいいのかなんて、だれも知らないし、どのタイミングで前梃子を放り込むのがベストかなんて、わかるわけはない。
 しかし300人近い人間それぞれは、全体の動きを勝手に想像しながら、各人がカンで「正解と確信する行動」を探りながら、4トンの塊と格闘する。

だんじりの遣り回しとフッサール現象学においての「正しさについて」がここでクロスする。
すなわち「何が世界(遣り回し)の正しい姿か」を考えることと、「(遣り回しについての)普遍的な考え方ということの原理はあるのか、また、それをどのように言い当てることができるのか」を思考することの間には、決定的な隔たりがあるのだと思う。
客観存在としての現象は、人の認識では完全に把握することはできない。
けれども、同じ身体感覚を共有する人間同士でなぜ「間主観性」といった共同意識が成立するのか、を証明するための問いをフッサールは立てた。
石川さんは「だんじりの参加者が、暗黙裏に了解していることが四つある」としたうえで「正しさは、外界にあるのではなく、みんなの了解のなかにある」と書いているのが、それではないか。

基本的にだんじり的人間世界の本質は「関係世界」であるといえる。
動物的すなわち身体的な「環境世界」は、「身体」に対して一義的な相関関係しかないが、「関係世界」では、この関係は多元的かつ多義的なので、その中での人間の身体は「幻想的な身体」として形成されていく。
その人間の関係世界は、基本的には他者との「関係」を築くための世界だが、これは本来、人間が自己を同定する「自我」をもつことから立ち上がる。
石川さんは「相手をリスペクトすることと同時に、相手からリスペクトされることが、集団の目標になる」と書いているが、それは自己了解と他者との関係了解の網の目みたいなものである。
だからこそ『社会関係を構築するということは、端的に言えば「不快な隣人」を排除することを自制する節度のことです。 』(東京ファイティングキッズP133/内田樹)が、だんじり祭のような激しい祭では必要なのだと思う次第だ。

2005年10月11日

IT秘書走る

10月10日(月)

「週刊朝日」10/14日号の書評欄「週刊図書館」に「だんじり本」つまり「岸和田だんじり だんじり若頭日記」が取り上げられた。
とてもうれしい。それはうれしい。
書評は短い文章ではあるが、だんじり祭というものが巷で喧伝される荒っぽさだけでなく繊細なコミュニケーションによって支えられていることを書いて頂いていて、最後の「しゃべり散らかされる岸和田弁がカッコいい」という一節にメガトン級にぐっとくる。

その感想を書こうとして、加えて昨日のテーラータカクラで開かれた「同年会」のことを長屋のみなさんに報告しようとして、マックを立ち上げると、画面がぶるんぶるんと大揺れ状態である。
使っているマックはiMacだが、ブラウン管内に出てくる画面の絵図が縦横に揺れ、そのままフリーズしてしまうのである。
何回やってもそんな感じで、ぶるぶるっとくる。

これはあかん、やばい、とこの長屋の内田先生のIT秘書のイワモトさんにSOSのケータイを入れるとすぐ出てくれた。
こちらから状況を伝える。
「あー、それはもうアウトかもしれませんね。ハードウエアの問題です。つまり寿命かもしれません。けれども、とにかく診てみないと分かりませんから昼からそちらのお家に行きます」とガーンとくるが、親切極まりない涙ちょちょ切れる返答。
「ええい、もうどうにでもなれ。イワモトさんにアカンて言われたら諦めもつくわいな」とふて寝していると(実は風邪引きで熱があった)午後2時にわざわざ来てくれて感激する。
オレのiMacはやっぱり調子がその通りで、イワモトさんはコントロールパネルのなかを触ったり、モニタの設定をいろいろしてくれたものの相変わらず画面が「大揺れ状態」で頭を抱える。
ひょっとして電磁波の強い電子機器を使ってないか、テレビやオーディオのオン/オフでは…といろいろやって、なんかプラグを差し込んでるタップから音がしましたね、だから電源がどうかということで、つなぎのタップからiMacのコンセントを抜き、直接壁のコンセントに直結するとあーら不思議、安定するではないか。
「多分タップが悪いので、コンビニにでも行って買って来てください」
「はいはい、走ってきます」
ということで最近のローソンに行ってTOSIHBA製の3口タップを購入。
それでけろりと直って(それどももうOS9.2のこのiMacは寿命だと言われた)このブログを書けている。

9日午後6時にテーラータカクラで行われた恒例の「同年会」は最高だった。
主の若頭筆頭を終えたばかりのM人と去年の筆頭で前梃子の相棒のM雄、去年岡山に転勤になったKバも祭と同じように帰ってきているし、JRの車掌のS本も休みである、それと駅前商店街の店を早々と出てきた判子屋のYちゃんとで計6人。
あのアエラに載ったそのままのその元店の部屋で酒を飲む。
M人は鱧鍋を用意してくれている。
具、つまり鱧以外のあしらいは、泉州~淡路のそれを知っている人なら容易に分かるだろうが、タマネギと生椎茸、豆腐、三ツ葉、ジャガイモ。
ダシは骨切りした後の鱧の骨を炙ってそれを湯に入れ醤油、酒、ミリンとシンプルだが深い。
薬味は柚子胡椒のみである。
「今日の鱧、脂のってて抜群やど」との通りむちゃくちゃ旨い。M人は料理が上手い。

入手したばかりの今年のだんじりのビデオを観ながら、ビール、焼酎(麦)、焼酎(蕎麦)、焼酎(芋)と進み、締めは「鱧はうどん違て、そうめんや」と素麺で腹も一杯になる。
10時くらいに、山手の祭の本宮最終にさしかかる「箕土路町」のTくんからしきりにケータイ。
TくんはM人の従妹の旦那さんで「365日祭りを中心に動くまち、そんなまちから生まれた“だんじり祭賛歌”ー『泉州のひと』」という「セトやん」のCDの作詞家である。
「今からでも早よ観に来てくれ」とのことだが、M人は「それは遠慮しとくわ」とのやりとりの後しばらくあって、再度「これだけ聴いてくれ」と箕土路町の「仕舞い太鼓」の実況中継がケータイから伝わる。

この町独特の祭が終わるその時、だんじりがすでに入庫せんとする際に、演奏する神楽のような囃子である。
回ってきたケータイに「Tくんか。知ってるで、オレのだんじり本の表紙描いてもろた六覚千手の兄貴の“箕土路の鳴物”のCDで聴いたことある。そやけど、やっぱりその通りや。そっちはそっちでええ祭やのお」と答える。

山手の後梃子さんはじめ、10月祭礼地区の皆様方、8日は雨で大変でしたが9日はいい天気で何よりでした。
本当にお疲れさんでした。

2005年10月25日

昇魂式

10月23日(日)


中北町の昇魂式。
後で聞いたのだが、観客約2万人。
そのだんじりが、五軒屋町を通る際、纏を出し、花束を贈呈するので午前5時50分にだんじり小屋に集合だ。
祭衣装を着込み、きっかりに出ようと地下足袋のコハゼを止めているとM雄からケータイ。
「おい、もう上がってくるど。何やってんな、早よ商店街入口に直接来い」とのことで、走って行く。
もともと9月のための祭衣装。寒い。雨天である。

昨夜はその昇魂式の曳行に支障のないように、コースに含まれる町内の駅前商店街と昭和大通りに、駐車禁止のために安全委員がカラーコーンを設置した。

中北町の纏が見え、そーりゃ、そーりゃと綱が入ってくる。
祭本番より曳き手が多く、綱が長いのではないか。
夜明けすぐの雨空の下、墨一色、白抜き町名のこれ以上ないシンプルな中北の法被の曳き手とだんじりが水墨画のように見える。
太鼓が並足になり、纏の手前で一旦停止するためにスピードを落とす。
綱元付近に同じ年、平成15年度に若頭筆頭をしたH野のAっつんがいて、通りがかりに手を挙げると、すれ違いざまにパシッとその手にタッチしてくれた。
曳行責任者をしている「ミスター中北」Aっつんの兄のY夫さんがだんじり正面の前板で、ブレーキを軽く踏み「おい」と左右の前梃子係りに促す。
梃子が入り、一旦停止。
平成17年度五軒屋町曳行責任者のK岡さんが花束を渡す。
万雷の拍手。

即座に太鼓が曳き出しに替わり、旧26号線を渡り、駅前商店街へ入るやいなやもの凄いスピードで走る、走る。
後ろを追いかけて走る中北町内の女性や子どもたち、熱狂的なギャラリーの多いこと。
何回も書いたが、ほんとうにフェラーリである。
そんなことを考える間もなく、あっという間に、小さくなり見えなくなる。

昇魂式というのは、だんじりを新調した時にだんじり大工の工務店から町内へに曳いて帰り、宮入をし新しいだんじりに魂を入れる「入魂式」の逆で、今まで曳いていただんじりに別れを告げ「魂を昇らせる」最後の曳行だ。
わが五軒屋町も平成10年に新調をしているから、今日と同じようにその前年の祭後に昇魂式の曳行をし、新調年度に入魂式を経験している。

それにしても、この季節にしては少し早い木枯らしな天候の下、このごった返している観客の数は何だ。
今度はだんじりがカンカン場から貝源を左折するそうなので、人混みを押しのけ「前梃子責任者」と襷をかけた来年の若頭筆頭のT造と貝源へ移動する。
貝源祭礼本部前では今年の筆頭のM人と北町のT田くん、筋海町のI田くんの同筆頭が「若頭責任者」と襷をかけて、若連に混じり警備をしている。
ご苦労様である。

中北のだんじりがカンカン場を曲がってきた。
「すまんけど、もう3メートル下がっちゃって!」
と溢れる観客を彼らは下げようとするが、なかなか下がってくれない。
法被者のオレたち若頭幹部も彼らに交じり、声を出し人払いを手伝う。
貝源交差点に纏が入り、後梃子のキャッチマンが待ち構える。
ようやく円を描いて猛スピードで遣り回す後梃子の長いドンスが張れるだけのスペースが確保できる。

一旦停止線もなんのその。太鼓が替わり、綱元が入り、後梃子が取る。
それにしても何という速さ、何という正確さだろう。
観客の歓声拍手のなか、鳥肌たちまくりで「これぞ中北の貝源の遣り回し」を見せつけられる。
北町のTくんは「エンジンとハンドル付いちゃある。まちがいない」と冗談を言ってはわれわれを笑わせる。

雨と人混みの中、T造の傘に入れてもらいながら「来年の入魂式、ごっついやろのお」と早朝の昭和大通りを歩いて帰る。
平成18年中北町新調に続き、20年に北町と宮本町、22年下野町、24年大工町、大北町と岸和田旧市のだんじりの新調が予定されている。
調べてみると、大正4~14年の10年間に、岸和田だんじりの約半数、12台のだんじりが新調されていて(うちの先代は大正12年である)、同様に平成に入って新調が多いというのもそれらの代かわりの時代に入ったということである。
われわれの世代は、若頭の時代に新調を経験出来たという、だんじりラッキー・ゼネレーションである。

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