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コミュニケーションの手練れ

1月18日(火)

高い酒にさらにおもいきり付加価値をつけて売る北新地のクラブ(音楽で踊るところ
のそれではないです、念のため)のママさんやホステスさんは、コミュニケーション
の天才だ。

ミーツでも日記風連載の「ダメよ、だめだめ北新地」がこのところ人気コーナーとなっ
ていて、
●12月20日(月)  北新地に於ける、客のトリビア。自ら、自分の禿げ具合を
話のネタにする客(「わしの頭はハーゲンダッツ」など、おっしゃるお客様)ほど、
ホステスが頭の事をネタにすると嫌がる。

こんな感じなのだが、彼女たちが客を引っ張る販促ために携帯メールを駆使している。

夕方6時過ぎになれば、その女性たちが会社では普段「社長」とか「専務」(部長も
当然あり)とか呼ばれているひとにメールをがんがん送るそうだ。

客商売の彼女たちは、その宛先の人がどういう人か当然分かっている。
なぜなら、「○△常務、お願いします」と電話をかけると、必ず本人が出ないで「失
礼ですけど、お名前を」と聞かれて、「北新地のクラブ○×の知香ですぅ」と言うの
をためらって「山田知香と申します」と源氏名にその時に思いついた苗字をかぶせて、
しばらくして「今、会議中です」とか「外出していますが、ご伝言は」と返されるこ
とをしばしば経験しているからだ。
もちろん会社に行って直接会って「今日、遊びに来てください、ねっ、ね」とはいか
ないのが世の中だ、というのは熟知している。

コミュニケーションというのは、まずそれを立ち上げるためのコミュニケーションが
成立してから、その後で有意なメッセージが乗っかってくる。
コミュニケーションにおいては、起源的にはコンテンツよりもコンタクトの方が1次
的な出来事である(マクルーハン)、という例のやつだ。

携帯電話は距離的なそれをすっとばかす。
彼女たちには、受信されたらダイレクトに「もしもし」といって、「あー、いまちょっ
と」とならずに「もしもし」と返ってくれば、あとは「こっちのものだ」からだ。

もっとヤバイのは携帯メールである。

メールの文字は、テレポートする。
メールはわたしとあなたが接するのは送信ボタンをクリックした、その一瞬だけだ。
会って話をするのはもとより、電話はまだ人の時間を裂くから電話よりメールのほう
がしやすい、相手の都合を気にしなくてすむ。
メールには実は相手なんていないというか、会って話をしたり電話をしたり、したと
きにそこにいたような人はいない。

そしてメールを開くというのは、すでにその言葉を受け取る準備がある、メッセージ
をわたしは読んでやろう、という回路がすでに開いている状態だ。
それは距離も状況的な時間もすっとばかして、1次的なコンタクトをたやすく乗り越
える。

いきなり「こないだのお話の続き、ぜひ今日聞きたいです(*^o^*)」とか、
「いつもネクタイがおしゃれですね。今日はどんなのしめてるか知香は見たいのです
?」などと送ると、おっさんは「うーん、かわいいヤツめ、よっしゃよっしゃ」とな
る。

おっさんはそれがわからないからおっさんたるゆえんで、ひとりでどんどん行ってし
まう。
口を半開きにしてぶっとい指でメールを返信したりもする。
そうなると、おっさんはさらにひとりで盛り上がってしまって、正真正銘のおっさん
になるしかない。

その北新地ホステスコラムの隣に「露呈した、行きがかりじょう」を連載しているバッ
キーイノウエも、これまたコミュニケーションの手練れで、メールをよく送ってくる。

こないだの日曜日はまだ風邪が治ってなかった。
だから大丸へ、夕ご飯の総菜とワインを買いに行った。
お歳暮にいただいた、商品券が残っていたからだ。
休日の街それも冬の夕方前に、雑踏の中をそういうせこい趣旨で風邪で身も心も弱っ
てる中年の独りもんのおっさんが歩くのは、なんぼオレでも泣きたくなる。

けれども居酒屋や知り合いのバーに行くには時間が早すぎるし、きょうはしんどいし
月曜の明日は朝イチ会議だからやめとこ、と当然なる。
けれどもオレは街的人間だ。
10人くらいの列を作ってる餃子の「赤萬」をのぞくとちょうど1席開いている。
おっ、これはラッキィー。「ひとりやけど、いけますぅ」といってその席をすばやく
埋め「ビールと2人前」と注文する。

すぐ出てきたビールを飲みながら、3~4人のおばちゃんと若い男子が、餃子をひと
つずつ丁寧にかつ素早く包んではそれをどんどん焼いていくこの店ならではのプロの
仕事を見ながら、無意識に携帯を確かめる。

イノウエからの2通のメールが入っている。

>江、今日も5時から近所のバーでスタンドアローンや。しかし俺には似あわねえ。
肌色のチャームでもオーダーしてみるか。山本さんとこいかなあかんな。

「山本さんとこ」というのは、5時前からやってる神戸の名バー「ローハイド」のこ
とだ。半分エレメントないし意味不明、けれどもこいつも寒い日曜の夕方ひとりで飲
んでるんだ、と分かる。

続いてその30分後に着信していた2通目のメール。
>日曜の夕方の明○屋は一緒に暮らしたくない奴ばかり。俺もメイビイそうなんやろ。

ちょうど餃子が焼き上がって、家族連れの4人とアベックの2組に出され、オレのは
まだだ次の番だとわかったので返信する。
>大丸にワイン買いに行ったら赤萬1席だけ空いていてラッキー、今から食うとこ。
独りもんは得する

即返信があって
>死ぬなよ 、江
ときた。さすがにオレもうっとなってしまって、
>泣かすなや
とだけ正直に書いて返信した。

その後は
>おれらはラテンちゃうしのー。(イノウエ)

>せや。どっかに帰りたいのお。(オレ)

>表現者も誰もかれもが泣いていて、死で犬の小便をしたがってるように見える。俺
もそうやけど。(イノウエ)

>上手に自分とつきあえよ。イノウエ、またな
と書いた。

携帯メールはそういう意味ではとても街的で、ひとつ間違うととてつもないコミュニ
ケーションのツールだとしみじみわかる。

コメント (2)

ミヤタケ:

そういうとき、京都のオミズなら、こうメールを送ります。

「ほな、今日、うちとこ帰って来ぃな。タマゴ酒、作ったげる。ほんで、鰻食べて、早く風邪、治そ(^-^)」

この、お水ネタ。
おいしいねぇ。
ケータイネタも、ビタースイートで、いい味してる。
わらかすなや。

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2005年01月21日 12:01に投稿されたエントリーのページです。

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