2/17(土) うなれ!!ドラゴン騎士団

 ハンガリーの人口は997万人。一方で、あるヨーロッパの新聞記事によると(*1)、ハンガリーを離れて生きている人の人数は70万人。これは全体の約7パーセントである(この数は近隣諸国に住むハンガリー系の200万人を含まない)。この驚異的な割合を日本に適用すると、約840万人の日本人が国外に移住して働き、国外で生活しているという計算になる。凄まじい流出だ。政府は国外のハンガリーの人々が「ホーム」に帰ってくるようなキャンペーンをしているが、ほとんどの人は故郷へ帰るつもりはない。政治的にこんなキャンペーンはジョークに過ぎないということである。同記事は流出の原因は政治が反リベラリズムに向かっているせいだと言う。僕もそうだと思う。「岡目八目」のように、国を離れた人の方が物事をよく見えているかもしれない。

 以下にここ数日間で調べたことやあった出来事を書く。新しく知ったことが多過ぎて、まとまったストーリーにはできなかった。

 16〜17世紀のハンガリーの貴族で「血の伯爵夫人」と呼ばれるエリザベス・バートリという悪名高い人物がいる。なんでも、城の召使いや下級貴族の女を600人以上殺し、処女の血に身を浸すことによって若さを保とうとしたそうだ(*2)。バートリについては様々な残虐なエピソードがあり、興味深いオカルト話として伝承されてきた。

 しかし、バートリについての逸話が本当かどうかの真偽は確かではないということが、アメリカなどの近年の研究で指摘されている(*3)。当時の貴族の家庭では親が子供を大事にしなかったせいでバートリのように残虐な人間が生まれたということがまことしやかに語られていたが、事実は全く反対で、当時の貴族たちは子供を甘やかせるだけ甘やかしていた。一族が確実に長く生き延びるように子供を大切にする慣習があったようだ。権力を持つ女性として恐れられたので周りの貴族が殺人をでっち上げたと主張する者もいるが歴史的に言ってこれも正しくない。権力を持つ女性は当時のヨーロッパ社会で珍しくなかった。600人は多く見積もりすぎと言われているが、針やアイアンメイデンなどの信じられないほど恐ろしい拷問器具を用いてバートリは実際に何人かの若い女性を殺害した可能性は極めて高い。なぜバートリは世にも恐ろしいことをしたのか、伝説はどの程度真実なのか、それは今でも謎のままだ。

 バートリにまつわるオカルト話は面白い。面白いとか言っていると人格を疑われそうだが。
 
 17世紀、ハンガリーはハプスブルク家とオスマン帝国によって分割され、トランシルバニアを統治するバートリ一族にハンガリーへ平和をもたらすことが期待されていた。バートリ家はどうしてドラゴンの紋章を掲げたのだろう。

 カタリン・ノヴァーク元大統領の辞任を受けて、2月16日、英雄広場でオルバン率いるフィデス政党に抗議するデモがある。英雄広場を埋め尽くすほどの大規模なデモだったことがわかる写真を見た。この日は体調を崩してしまって現場に行けなかったのだが、デモに参加した人々のSNSからも熱気が伝わってきた。後日英雄広場を訪れるとダンボールで作ったカードがまだ残っていた。少し離れた場所のロシア大使館前に死亡したアレクセイ・ナワリヌイを追悼する場が設けられており、花束とキャンドルが備えられていた。火の消えたキャンドルに僕も一つ火を灯した。これは革命の火だと言うことを感じた手が震えた。

*参考文献

*1)『若い女性600人を殺害「血の伯爵夫人」バートリ・エルジェーベト』, NATIONAL GEOGRAPHIC, https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/22/102500492/

*2) "Hungary Is Spending A Fortune To Entice Its Young People Back Home, But Many Remain Unconvinced", Lili Rutai, https://www.rferl.org/a/hungary-brain-drain-politics-jobs/32753641.html

*3) "No Blood in the Water: the Legal and Gender Conspiracies against Countess Elizabeth Bathory in Historical Context", Rachael Leigh Bledsaw, https://ir.library.illinoisstate.edu/cgi/viewcontent.cgi?article=1134&context=etd