9/16 (土) ハンガリーの食事

 ブダペストは観光都市でもあるので、旅行者が不自由しないように誰でもある程度食べ慣れているようなものが売られている。マクドナルドもあるし、インスタントの袋麺も売っているし、冷凍ピザやお寿司やラーメンも売っているので、食べ慣れたものを食べることもできる。だけどそういうものはちょっと値段が高いし、ラーメンはラーメンというより鍋で煮込んだうどんに近い。それにせっかく異国に来たのなら日本で食べられないものを食べてみたいと思って冒険してみた。
 何なのかまったく知らずスーパーで適当に選んだスープが意外においしくて、どういう料理なのかなと思って調べてみると、「セケリカポシュタ」というハンガリーの19世紀まで遡る伝統あるスープだった。キャベツと豚肉のシチューを混ぜ合わせたスープで、僕が食べたのはレンジで2分温めればいいだけのお手軽バージョンだったけど、寒くなってきたら体を温めるために重宝しそうなスープだった。
 パンは日本では考えられないほど安い。安さを追求すれば、パンがひとかたまり20円で手に入るところもある。でも、味は安っぽくない。とりあえずパンを食べていれば、お腹は満たせる。
 パンにハンガリー風の味付けをするなら、「クルズット」というチーズスプレッドをパンに塗るのがいい。中・東欧の郷土料理で、羊乳チーズとパプリカや玉ねぎなどの野菜、お酒やマスタードなどの調味料を混ぜ合わせたペーストらしく、滑らかなコクがありながら酸味が利いていておいしい。『裏切りのサーカス』という映画の冒頭で、諜報員が待ち合わせの食事でパンに何やら塗りたくっていたのも多分、チーズスプレッドだ。一缶150円くらいの安さで、ハンガリー生活に欠かせない調味料になりつつある。日本では知られていないだけで、日本に輸入すればあっという間に人気になると思う。
 ハンガリーの料理は日本では全然聞いたこともないような料理ばかりで、冒険しがいがあるし、結構おいしくて、値段が安い。食事に困ることは当分ないように思う。お味噌汁とかは、ちょっと我慢しないといけないけど。
 食事を済ませてネットフリックスでスペイン語の映画を見ていると、一部の金持ち・エリートが庶民や貧しい人々を搾取する、という社会構造を描いた作品が多いことに気づく。搾取といっても、プロの犯罪集団が権力者に雇われて臓器売買するとか実際に人を殺すとかいうレベルのものが描かれている。
 映画のフィクションが現実の世界でそのまま行われているというわけでなくても、そういう映画が作られているということは、スペインで格差や犯罪が大きな社会問題になっていることを表していると思う。
 僕の部屋の前に集まって騒いでいたのはスペインの中でも「権力の甘い蜜」に与れないが与りたかった面倒な田舎者たちで、ビジネスによって成り上がりたいという「夢」にしがみついているように見える。そんな人と関わっても文学の勉強には役に立たなさそうなので、できればお引き取り願いたいものだ。
 ハンガリーで情報収集をするときに役に立つ言語は、ハンガリー語、ドイツ語、英語の三つだ。この三つの言語が使いこなせれば、「ハンガリーから見るヨーロッパ」というものがかなりわかってくるのではないかなと予想している。学部の図書館は英語資料とドイツ語資料が並列して置かれていて、ドイツ語資料には「スカンディナヴィアの民話」とか「デンマークのフォークロア」とか北欧を含む様々なヨーロッパの国々の資料があり、この資料に気軽にアクセスできたらヨーロッパがもっとわかるのになあ、と思いドイツ語ができないことが歯痒かった。でも、英語の習得にすら苦労しているので、ハンガリー語やドイツ語が本当にちゃんと使いこなせるようになるまでの道のりは長そうだ。