「イオニア式円柱は大嫌いだ。コリント式に至っては存在すら耐えがたい。」
-ダイアン・クック, 『最後の日々の過ごしかた』, 壁谷さくら訳
飛行機に乗るのがすごく久しぶりでドキドキしながら飛行機に乗り、何はともあれ飛行機は飛び、トラブルを起こすことなく無事にブダペストの空港に着いた。
ブダペスト郊外にある空港は、静かな山の景色と早朝の朝日で僕を迎えた。一度もブダペストに来たことがないのに「故郷へおかえり」と抱擁されているような、ノスタルジックな雰囲気の所だなあ、という印象を抱いた。このノスタルジックな雰囲気はブダペスト都市部のアストリアまで続いた。
空港から寮までのバスで中国から来た留学生の二人組と乗り合わせた。彼らは四年前からハンガリーのペーチでコンピューターサイエンスを専攻しているらしく、ハンガリー初心者の僕は彼らからハンガリー生活についてレクチャーをもらった。Facebookを交換して、アストリアでバイバイ。
寮(アパート?) にはほぼ一番乗りで到着し、ロビーで部屋の清掃が済むまで待つことになった。スタッフの人にあのベンダーマシンはカードが使えるかと訊いたら使えないということで、スタッフの人がカプチーノを奢ってくれた。図々しいかなと思ったがありがたくいただき、カプチーノで目を覚ました。
部屋が使えるようになったら近くのスーパーで必要なものを揃え、SIMカードの購入をし、ブダペストの第五区を散歩することにした。ネットの情報では第五区は比較的安全らしい。
ブダペストの都市部はお城だらけである。お店もホテルも大学もみんな石造のお城みたいになっている。映画やドラマの中に迷い込んだようだ。それから、どこを見ていてもキリスト教関係の石造・銅像・彫刻が視界に入るというくらい宗教的なモノが多い。あまりにも多いので頭がくらくらした。
長い間飛行機に乗ったり買い出しをしたりキリスト教に囲まれたりしてへとへとになりながら、Bestsellersという個人経営の本屋さんを見つけた。主に英語の本を取り扱っていて、ハンガリーの歴史の本とかも置いてあり、何冊かパラパラとめくってみた。本屋さんセレクトの本ということもあると思うけど、ブダペストで読むブダペストの話は事前に調べたものよりも言葉が伝わってくる響きが力強かった。
前の記事で引用した"What About Man?"や最近Audibleで聴いて面白かったSally Rooneyの"Conversations with Friends"が本当に本屋に置いてあるのを見ると、自分の知っているものがちゃんと本屋を媒介してブダペストと繋がっているように感じ、嬉しく思った。この本屋のソファで少し読書をして本を一冊買い、元気が回復した。
街でキリスト教に関係したものはたくさん見つけたが、トランスジェンダーに関係したもの、例えば本屋でもBogi TakácsというハンガリーのSF作家のものを見つけることはできなかった。ユダヤの人たちのものも見つけたかったが、それもよく分からなかった。
9月2日土曜日の朝。今日はなんとかしてユダヤのシナゴーグを見に行きたいと思う。ブダペストでリベラルな環境がどこにどんなふうにあるのか見つけたい。