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そして、ダ・カーポ

10月18日(火)
どうやら気管支炎になりかかっているようで、胸が痛い。
のどが痛くて、鼻水が出だし、せきも頻発するようになっていたが、ただの風邪と思い放っておいたものの、胸まで痛くなるとさすがに心配になり、医者に行って来ると、3日間の養生を言われた。胸が痛い以外の症状は軽くなり、特に辛いわけではないので、会社に行こうと思えば行けるのだが、すでに働く気なし。ただ単に、月曜日休んだ病欠の書類だけ欲しかったのだが、思わぬ展開に、
「え?家にいないといけないのですか」
「今日だけでいいんだったら、そう書きますけど」
「いやいや、3日間でいいです。」
ってバカみたいな会話をしてしまった。
夫にそのことを報告すると、
「やっぱり薬の影響がもしあったときのことを考えて、車とかで外に出て欲しくないんじゃないの?」
そうなのかもしれない。薬もちょうど3日間分だし。

日記を久々に更新したのを機に、今度からは頻度よく更新しようと思って、毎日少しずつでも書き出すのだが、どうもその日中に書き終わらない。書くスピードが以前と比べると非常に遅くなっているようだ。であれば、毎日、なにそれがありました形式ではなく、ここのところの総括という形で、ちびちび書いてみよう。

夫のリタイヤ後の生活の変化は、やはり多少ある。
夫が家にいるときは、昼間にお皿あらいやアイロンがけをしておいてくれるので、余裕度がぐっとあがる。
今までもどちらか疲れていない方が家事をやってきていたが、今は心置きなくお願いができるというか、イタリア人にしては珍しい何でもやってくれるタイプの夫を持って、こういう生活はいいなぁ、と正直思う。

ただし、半分以上は里に帰っているので、会社から帰っても誰もいなし、特に10月の頭は雨が降り続き、セントラルヒーティングもまだついてこないし、屋内も冷え冷えとしていて、心までひょーひょーと寒くなり、ついついオフィスから出るのが遅くなったりしていた。別に明日やればいいようなことを、ついつい終わり間際に始めてしまうからだ。そして、チンタラチンタラやっているうちに帰りそびれるというか、ある種の一人身の気楽さである。
あわてて夕食の準備をする必要もないし、冷蔵庫の残り物を適当に使って、机にテーブルクロスを敷くこともなく、思いっきり適当に食べる。
当然味はおいしくない。
やはり食事は誰かと一緒に食べたいものである。
そんなこんなで、突然友達に電話し、無理やりOKを言わせて食事に押しかけたりした。
カップル単位だと気を張るが、私一人だというと、案外友人たちは気軽に引き受けてくれる。

アルゼンチン人の弁護士さんは、離婚して一人身。
彼女には植物を3種類ほどお土産に、というか、引越しする前に少しでも植物を減らそうと、ご協力を頂いて、訪ねてみた。
町の中心部の素敵なパラッツォの屋根裏部屋。屋根の傾斜と木の支柱に白い壁。私のドイツにいたころのアパートを思い出す、非常に心地いい空間に住んでいた。でも、彼女の置かれている状況は相変わらずで、おしゃべり相手にもそれほど恵まれていないのか、数ヶ月ぶりに会う私相手に堰を切ったようにしゃべりだした。どうやら、まだ元夫との離婚ショックを引きずっているようで、それにいたった経緯を詳しく説明してくれた。弁護士としてそれなりの生活をしていたのに、イタリアではまだ定職も見つけられず、頼ってきた親戚ともなかなかうまくいっていない模様。誇り高い彼女にとって、なかなか辛い時期を過ごしているのがビシビシと伝わる。まだどこでどう暮らしていこうか、思いも定まっていないようだ。両親がイタリア人なので、彼女はイタリア国籍も持っているとはいえ、異国の地で、あの小さな肩にすべてを背負って生きていくのって大変だろうな、と、明日はわが身じゃないけど、本気でご同情申し上げる。
話の途切れに、彼女は席を外した。
小さい部屋なので、トイレを使用している音がドアの向こうから聞こえてくる。
彼女はまず水を流した。
あれっ?こういう音を気にするのって女性でも案外日本人だけだと思っていたけど、意外だった。かといって、話題にしてもいいのかわからなかったので、あえて聞かなかったけど・・・。
そんなこんなで彼女の愚痴をひたすら聞いているうちに、時計は23時をまわっていた。家に帰ると、夜中。時間を気にせずに、友と語らうっていうのも、一人身じゃないとできないことよね。

10月の第1週末は、トリノで、夫の同僚と私の友人をごちゃまぜにして、退職おめでとうの夕食をして、里に帰らなかったので、その後、早々に里に行った夫が、第2週末には「是非来てくれ」というから、何事だろうかと里にかけつけてみると、特に用事はなし。ただ私に「来て欲しかった!」ということだけらしい。1週間離れていて、寂しかったのね。肌のぬくもりを感じて安心するのは私も同じ。やはり、夫婦は常に一緒にいなくては・・・。

一緒にトリノに帰ってきて、しばらくすると、また里に向かった夫。
残されたトリノでの日々を有効に過ごすために、私はまた友達に連絡をとった。
近所に住む唯一の日本人の友人。お互い仕事を持っているから、なかなか会えなかったりするんだけど、「ひとりなんだったら、近くなんだし、ウチで夕食食べなよ」と誘ってもらい、お邪魔した。
イタリア人のダンナは「粉系の料理で遊ぶのが好き」らしいので、やはり、何か「粉系の遊んだもの」を持っていくべきかナ、と思い、たまたま手元に残っていた白玉粉を利用して、白玉団子のお饅頭を作って持っていった。
小豆はたまに買って、まとめて煮て、粒あんにしたのを保存しておくので、それを冷凍庫から出してチン。あとは白玉粉を水で練り練りして、そこにあんこをつめて、またレンジでチン。初めて挑戦してみたが、案外簡単に出来た、白玉団子。ヴァリエーションとして一部には白ゴマを表面にまぶして、なんだか、点心みたい。表面がプルルンとしていて、われながらおいしそうに出来た。
こういうお遊びができるのも、夕食を作る時間を気にしなくてもいい、一人身の特典かな。
セントラルヒーティングもはじまって、家の中は快適。なんとなく心までホクホクと暖かくなってきた。
友人宅では、そのダンナさまが粉を調節して作った自家製のパンをはじめ、また違う家庭の味を堪能。結婚してみて思うのは、やはり自分以外の人が作った料理って、とってもありがたいのよね。たまに息抜きしたくなっても、外食は高いし、里の義母は当てにできないし、友人宅にもそうそう気軽にいけないし、実家ははるか彼方。夫は最近同じものしか作らないし、私の貧しいレパートリーの中から、いつも似たようなものばかり食べていて、飽きるのである。やっぱりたまには、友達とこうやって食事っていいもんだなぁ、としみじみ。
また、この9月に日本に3週間ほど行っていた彼らは日本からたんまりと食料を調達してきたようで、ノリやら、デリケートな味付けの昆布やら、非常においしいものを出してくれた。
和食万歳である。
トリノでは、日本の食材は大抵中華系のお店で調達するが、品揃えは大したものではない。しかも、賞味期限が切れたものを上からシールを貼って隠し、平気で売っているのも中国風である。
彼女はパリで見た日本人街の日本人用の商品充実度を目を輝かせて話してくれた。
私が、「ミラノより充実してるの?」なんてピンボケな質問をすると、
「当たり前じゃない!日本人の数が違うわよ。」
と言われてしまった。
なんだかんだいっても、イタリアは田舎ですからねぇ。華のパリと比較しようというのが間違っていたのね・・・。
そのトリノよりさらに田舎の、ど田舎村に引っ越す私は、やはり日本から持ってくるしかないのかしら・・・。

だいたい、日本から持ってくるといっても、一人で持てる荷物なんて、たかが知れてる。
彼らはカルピスのパックを2つも持ち帰ったのである。
「液体なんて重いじゃない!」
「そんなぁ、こんなの重いうちに入らないわよ。1キロもないんだし。」
彼らは弓道をしているので、その弓やらお道具などを持ち帰るために、JALやANAで特別枠をもらっているらしい。それもちゃっかり2人分。
それで、いろいろ持ち帰れるらしい。
そんな言い訳もない私は普通のエコノミーだし、ちょっとつめただけですぐに20キロをすぐに超えてしまう。
その昔、香港へスーツケース1個で赴任を言われたとき、超過料金のことを知らなかった私は、ありったけつめて行った結果、その超過料金だけで、軽く手取り月給近く吹っ飛んだ経験がある。その当時は非常に超過にシビアだった。エアラインにもよるのかもしれないけど。

それにしても、今回は弓道の試合が見れただの、四国を旅行してきただの、食料調達してきただの、本当にうらやましい限り。
夏休みに夫婦で帰国する人はたくさんいるけど、みんな大抵、1ヶ月ぐらい滞在するらしい。もっとも往復の事を思えば、それぐらいいないともったいない。
うちもやってみたいとは思うけど、その受け入れ先が、諸手広げて歓迎というのと、あんたはダメというのでは、やっぱり感触が違う。
未だに夫のことは受け入れてもらえず、夫がいると、家にさえ入れてもらえない。
今年年初の兄の結婚式のときに、がんばって交渉してみたが、やはりダメだった。
一度強行に帰国したことがあるが、その時は逃げられてしまった。
今度押しかけると、どうなるかと思うが、いざって時のために、ホテル代やら、お友達に頭を下げて転々とするか、なんて考えるだけで、気持ちが萎えてしまう。
私だけ帰国すると今は問題ないのだが、夫と長期間離れているのは気になるし、いやだし、どうしても腰かけ程度の滞在となってしまう。
夫がリタイヤした現在、仕事を休むことを気にすることもないし、私自身の仕事はなるべくリモートでコントロールできるような形を目指して、一度落ち着いて夫婦で日本に滞在したいと思っている。もっとも義母の事もあるので、それが落ち着いてからということになるだろうけど。

里からの夫の報告によると、義母はまた目の周りに黒いクマを作っていたらしい。
夏休みに帰ったときに私が見たときも、まるで漫画の世界でパンチをくらったかのように、みごとに真っ黒けのパンダちゃんになっていた。
どうしたの、と聞くと、コケたと言うのだが、その説明が1時間おきに変わってくる。本人はその時は本気でそう思っているのか、私たちを心配させまいとウソを言っているのか、とにかく説明がコロコロ変わっている自覚はまったくない。
ただ、死にたいと繰り返すのみの義母は、食べないし、悪いことに、アルコールを飲みはじめた。
それも好きで飲んでいるのではなく、体に悪いことを知っていて、わざと飲んでいるのである。食べずに飲んでばかりいるから、唇はどす黒い紫色になり、目の周りも赤くなっていることも多い。幸か不幸か、足腰が丈夫なので、ひとりで買い物に行く。そして、いつも何があるかを忘れて、同じものを買ってくるので、冷蔵庫の中は古くなったサラミとチーズとトマトとフィノッキ、卵などばかりで、奥のほうには賞味期限が切れたバターなどが山積みになっている。その時に、「料理に使う」といって、パックに入った安物のワインを買うのである。
店の人に「母にはワインを売るな」とも言えないし、私たちがいないときにどうしているかもコントロールできないし、どう手を打てばいいのかわからない。とにかく、年末に私たちが引っ越してくるまで、なんとか持ってくれ、と願うばかりである。引っ越したからといって、状況が改善するとはわからないが、少しぐらいはブレーキをかけるよう、プレッシャーをかけることはできるだろう。少なくとも、アルコールと栄養不足でフラフラになって、倒れて、どうして目の周りにクマがあるのか記憶がない、という状況だけはないようにしたい。

そんな状態のことの報告を受けていたが、夫の「この週末来る?」に対して、NOと言ってしまった。
確かに、義母の状態はよくない。私の都合を優先させることによって、後で後悔はしたくないと思う。そして、夫が母の弱りように悲しんでいることにも心がぐっと打たれるのも事実。
でも、私にも私の生活がある。悪い嫁/妻にはなりたくないが、もう1年以上も毎週末里帰りしているのである。私にも私の時間が欲しいのである。
もうすぐトリノを去るんだから、少しぐらい自分の時間をとりたいというのは、身勝手なのかしら。
こんな言い方をしたら、必要以上にきつく響くかもしれないが、「ああ、もうだめかも」という状態がいつまで続くかわからないし、それは明日かもしれないし、10年後かもしれない。そう思うと、あと少し私のわがままを許してと思ってしまうのは、やはり血がつながっていないからかもしれない。

そして、この土曜日には、また別の友達と一緒にランチした。
ああ、なんて楽しんだろう。「私の」友達と日本語で心置きなくおしゃべりするのは、最高である。
ブラブラとトリノの街中を散歩し、気軽に中華料理屋に入り、姉御肌の彼女は、私の分も取り皿に取り分けてくれる。ああ、いいねぇ。もっとやって、っていう感じ。
その後、トリノオリンピック用の仕事口登録をやっているらしいと彼女から聞き、一緒に登録に行った。
就職セミナーみたいな感じで、各社のブースがあり、そこに履歴書を持って、トリノ中から集まったイタリア人、外国人、老若男女が担当者の話を聞いている。すごい数の人が来ていて、会場は熱気でムンムンだった。履歴書など、持って来ていなかったので、とりあえず、オンラインで登録できるものに、入力し、めぼしいブースを回って、メールアドレスを聞き、あとで履歴書を送ることした。が、よく考えてみると、そのときには、私はトリノにいなし、家もない。まあ、声がかかるかどうかもわからないし、実際にかかってから、対策を考えることにしよう。
あっという間に夕方になり、会場近くのバールでアイスクリームを食べていると、彼女の夫が迎えに来た。楽しかった一日に感謝して、私はバス停へ。人込の中にいたせいか、疲れた。
そして、ダ・カーポ。

コメント (4)

ci:

ご無沙汰してます。ゼミ同期のciです。
ぶたさんと言えば、ランカウイの海辺を無邪気に駆けていた姿を思い出します。
楽しい旅行でしたね。
今は、イタリアにお住まいとのこと。羨ましい限りです。
久方ぶりの一人暮し楽しんでください。
(お義母さまごめんなさい。)

今、DA VINCI CODE読んでます。。

ci:

ご無沙汰してます。ゼミ同期のciです。
ぶたさんと言えば、ランカウイの海辺を無邪気に駆けていた姿を思い出します。
楽しい旅行でしたね。
今は、イタリアにお住まいとのこと。羨ましい限りです。
久方ぶりの一人暮し楽しんでください。
(お義母さまごめんなさい。)

今、DA VINCI CODE読んでます。。

ぶた:

ciさん、お久しぶり。
偶然、私もついこないだ、ダ・ヴィンチ・コードを読み終えたばかりです。
しかも、日本語でです。
たまたま、この日記に書いた友人宅で棚にあるのが目に入ったので、思わず借りてしまいました。
夫の友人からイタリア語版をまわしてもらっていて、オフィスで盗み読みしようと思っていたんですが、なかなか進まなくて・・・。
これでストーリーもわかったし、イタリア語の学習がてら、もう一度読んでみようっと。

ci:

偶然といえば、この間部屋を片付けていたら、ぶたさんからの封筒が出てきました。ゼミ旅行の時の資料を送ってくれたもの。
思い出の品というものを悉く捨ててしまう方なので、びっくりしました!衣類と一緒にしまってたし。。

では、寒くなってきました。御身体お大事に。
秋の夜長の読書ですね。もう、冬かな。

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20.10.05 09:35に投稿されたエントリーのページです。

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