変わりゆく世界

5月18日

 先月末にひと月延長されたウィスコンシン州の外出規制命令が"違法"であると州の最高裁判所が判決を下したのは、ロックダウンの終わりまで残り二週間となった今月13日のことだった。世界的にも話題となったこのウィスコンシン州の異例の判決は、とどのつまり、この日をもって先月末から続けられていたロックダウンが突如として、事実上"無効"となったことを意味していた。
 もともと共和党の強い同州は、つい二ヶ月ほど前にも州の選挙投票日を延長しないという驚きの決断をし、コロナウィルス猛威のピーク時に人々が投票所へ集まらざるを得ない事態を引き起こした特殊な州として悪目立ちしたばかりだったが、今度という今度も、州知事の「外出規制延長」の命令が最高裁判所によって退けられ、その混乱の中で一部の地区でその日中にバーになだれ込んだ人々が近距離で酒を飲み交わす映像が大きく報道されてしまう結果となった。
 ある番組ではウィスコンシン州は冬が厳しいことから、「あそこは冬に毎年二ヶ月は自主的に自然の(雪による)ロックダウンをしてるところだから、彼らの気持ちは分からなくもない」と皮肉たっぷりのジョークを飛ばしつつ、もちろん今後懸念されるであろうウィルスの第二波についての厳しい意見を言い添えることを忘れなかった。

 だけど確かに、私たちはこの早すぎるロックダウン解除への不安以上に、やはり二ヶ月のロックダウンが終わるということへの喜びに浮き足立っていることも隠しようのない事実だった。もう五月半ばである。いつしか大学も春のセメスターがファイナルを迎えて終わり、学生たちはすでに長い夏休みに突入していた...。たった二ヶ月。されど二ヶ月、であった。

 ところで私はこのロックダウンの二ヶ月間、仲良くしているグループの友人達とのビデオチャットだけは毎週欠かさず企画するように心がけていた。でなければ、人とのつながりの無い日常生活がどんどん希薄化していくような気がしていたからだったが、もともとホームスクーリング(家庭内学習)という形で自宅で教育を受けてきたデクレンという大学生は、「今回のことで、僕には友人との関わりがあまり必要ないのだということが改めて分かりました」と、オンライン授業に切り替わったロックダウン下での生活が「さほど苦ではなかった」と言って私を驚かせたこともあった。オンラインに切り替わり、日中家で作業をすることのモチベーション維持に多くの人が苦闘する中、デクレンは一人で自宅学習することに慣れているタフな青年だったのである。

 だけどコロナウィルスの影響で全ての教育がオンラインに切り替わったことは、ウィスコンシン大学を主体とした学園都市・マディソンに住む私にとっては大いに着目すべきことでもあった。ある州ではオンラインに切り替わったことで、授業料の返済を学生側が大学に求めた例もあったし、ウィスコンシン大学はコロナウィルスの始まりと共に大学関係者トップ何人かの給料削減を発表、シカゴ大学はコロナ以前に検討していた授業料の値上げの見送りを発表していた。 
 オンラインになったことで、多くの学生たちがアパートを引き払い、母国へ、地元へと帰って行った。「授業によっては、オンラインなら意味がないし、YouTubeでもっと良い授業が見ることができる」という意見を耳にすることもよくあった。大学でスペイン語の授業を受講していた友人も「全然面白くないから、秋もオンラインなら絶対に受講しない」とはっきりと私に言ったことがあった。

 それから大学中で、学期末テストのカンニングが当たり前のように横行したことも特筆すべきことの一つだった。オンラインでの試験で、誰がどういう形で試験を受けているか分からないのだから、どの試験も"カンニング天国"というわけである。
 ウィスコンシン大学の学生である韓国人のハノルは、たまたま彼女の「日本語」の期末テスト時間中に私が企画していたビデオチャットに乱入すると、そこでチャットをしていた私を含む日本人三名に自身の日本語のテストを回答させるというとんでもない暴挙に出た強者だった。「宿題」だと偽るハノルに乗せられて、日本人三人で日本語の期末テストを手伝った後、それが期末試験だったと気づいた私に向かってハノルはあっけらかんとこう言ったものだった。「どんなcheating(カンニング)を選ぶかは個人の選択だと思う」。「大丈夫、セイコはpunishment (罰)ないから」...。

 思えば、たった二ヶ月だったけれど、確かにたくさんのことが大学を巡って変わったようだった。最近では、閑散としたキャンパスに若い学生達ではなく、デリバリー用のロボット達を頻繁に見かけるようになった。これは去年の秋から大学内で導入された「アプリ一つでフードデリバリーをするロボット」だったが、コロナウィルス発生とともに、彼らの活躍ぶりはいよいよ勢いを増したように思われた。土日を問わずあちらこちらで忙しそうに働くロボット達を見て、ある時、地元メディアは「彼らは今やキャンパス内の大切なフロントライン労働者だ」と伝えて賞賛していた。
 たった二ヶ月、されど二ヶ月の出来事だった。