サクセスってなんだろう

1月21日。ハリウッド映画がハッピーエンドを好むように、アメリカ人はとかくサクセスストーリーが好きだ。今年から私は語学学校の他に、MATCというコミュニティカレッジの学生になった。そこで週に四日、半年間英語を学ぶことになったのだが、その新入生のためのオリエンテーションに行ったときのことである。学校の偉い人の挨拶があり、軽いクイズゲームが終わったあと、カウンセラーだという黒人のおばさんが壇上にあがった。なんとなくその人が壇上にあがった瞬間に空気が変わった気がしたのだが、次の瞬間、「失敗した経験のある人はいる?」とすごい剣幕で質問を投げかけたのである。客席からは遠慮がちに「車の免許の試験に落ちた。」という声が聞こえた。すかさずおばさんは言う。「私も何べんも落ちたわよ!他には?!」「…学校のテスト」「誰が受かるの、あんなもん!他には?!」すごい勢いである。次から次へと新入生の失敗談を即座に肯定していったあと、今度はこれを見ろと大スクリーンにシリアスな音楽とともに映像が流れ始めた。ウォールト・ディズニー、エジソン、ビートルズ、ビル・ゲイツ、モハメド・アリ、キング牧師、アインシュタイン…名だたる有名人の失敗談の大放出である。笑いをかみ殺しているのは私だけだった。15分の失敗談集が終わった後、またおばさんが壇上に上がる。「このカレッジでサクセスするには何が必要なの?」失敗なんて怖くない。やめないこと、続けること、信じること。そしてその先にサクセスはあると気づいて欲しい、というわけである。
 
これだけではない。MATCで始まったリーディングの授業では、さっそく先生が「リーディングの授業でサクセスするにはどうしたらいいか?」とお題を出してきたのである。私はこれまで授業におけるサクセスなど、考えたこともなかった。あなたのサクセスは?ゴールは?と先生は生徒に投げかける。さらに、こうした出来事に呼応するかのように語学学校のグラマーの教科書でもサクセスした人々の話が扱われた。しかもガンジーである。教科書は説明する。「ガンジーやビル・ゲイツに共通することは、目的を持っていたこと。彼らは行動することやリスクを恐れなかったのである。」そしてサクセスについて自分がどのように定義しているか考えて、過去完了形を使ってノートに書きなさいとのことである。私はすっかり困惑してしまった。教科書にはサクセスに対するいくつかの定義が書かれている。「お金をたくさん稼ぐこと。」「やりたい仕事に就くこと。」「友達や家族と良好な関係を持つこと。」「ゴールを達成すること。」だけど、そこにはサクセスに向かえない人をどこかしら排除してしまう空気があるようにも私には感じたのである。
 
そういえば、以前アメリカのロックバンドのドキュメンタリーを見ていた時に彼らの一人がこう語っていた。「働かない奴は単なる怠け者だ。俺は努力したからこそサクセスしたんだ。」また、前のセッションで過激なトム先生はこう言っていたのも思い出した。「仕事をしない奴は怠け者だ。アメリカ人の多くはいろんな状況下でゼロから国を作ってきた意識を持っている。だから働かない奴はたいてい努力してない人たちなんだ。」まったく、怠け者の私には痛い言葉である。この国におけるサクセスは、必ずしもお金と結びつかなくてもいいのだろうが、英語を勉強するからには、生徒であるあなたたちにはそれなりにゴールを持ってサクセスして欲しいというわけである。そうして出された宿題は、「あなたの周りにいるあなたが魅了されたサクセスフルな人について。」である。難しいお題だった。そして、私は内田先生についてワンパラグラフ書いて提出したのである。