ウィスコンシン州マディソンより

 あんなにくすぶっていたのだけれど、着いてみたらなんてことはない。日本とウィスコンシン州の時差は14時間。ほぼ昼夜真逆。それでも、少し考えればわかることだけど、Wi-Fiさえつながれば解約したiPhoneでこれまで通りラインもメッセンジャーもスカイプもつながるので、すぐに家族や友達との連絡が取れてしまった。空港についてすぐに「Wisconsin」の文字をその場で撮って「元気です。」なんていろんな人に送ったら、「元気そうでよかった」と瞬時に返事が返ってきてそのまま普段と同じラリーが始まる。11時間前に今生の別れのように「行ってきます」「元気で。」のやり取りをしたのが嘘みたいだ。

いずれにしても、近くて遠いアメリカ!ウィスコンシン州マディソンでの生活が2015年7月7日からスタートした。これからここが二年間の私のホームタウンになるのである。

今がいちばん過ごしやすい季節ですよ、と着いてすぐに一年先にマディソン校に通う先輩夫婦が教えてくれたけれど、なるほどカラッとした暑さと青い空が美しく晴れ渡っている。アパートの前に広がる芝公園は、朝に歩けば野うさぎやリスに出会い、昼間は見たこともない木に見たこともない朱色の可愛い鳥が集まり、かと思うと夕暮れ時にはほうぼうで無数の蛍が果てしなくキラキラと足元を舞うのだ。そしてこの夕暮れの蛍が私を何よりも感動させ、日々のランニングに花を添えてくれる。

信じられないことだけど、走っても走っても、夕暮れにはマディソン中の芝生で蛍の光がきらめくのだ。日本にいてすら、私はこれまでまともに蛍を見たことがなかった。ところがこちらでは滞在2日にしてもう一生分の蛍を見たような気がするのだ。こんな風に大量に、自然に、沿道をまんべんなく、美しい蛍の飛び交う姿を見ることができるとは夢にも思わなかった。

ふっと現れてはふっと消える。その後ろで重なるようにして光るときもあれば、二重奏のように同時に近くで光ることもある。遠くで光った瞬間にまた連続で現れるときもあるし、突然ふっとすぐそばを横切るときもある。ランニンングをする私への声援のように蛍がきらめいている光景は、筆舌に尽くしがたい感動的なもので、私へのウェルカムパーティのように思えた。

いずれにせよ、日本にいたころと変わらずランニングをし、いそいそと友人と連絡を取り、中国系のスーパーで購入したうどんをすすり、蛍の美しさに感動をしながら、ウィスコンシン州での4日目の夜が更けていったのである。