公共的な有害コンテンツ               【北陸新幹線 その 31】

 青少年に有害なコンテンツを勝手に送りつけて、後日、料金を取りにやってく
る......こんな反社のような押しつけ商法が野放しになっています。もっとも予防
法はわりと簡単で、テレビを持たなければ良いのです。学生などひとりぐらしの
若者は、「NHKが来る」という理由で、はじめからテレビ受像機を買わないよ
うになっています。
 けれども、有害コンテンツ自体は野放しのまま。言論の自由とは誠に難しいも
のです。一般的には、気に入らない番組なんか放っておけば良いのですが、明ら
かに誰かを傷つけたり、セキュリティーやプライバシーを侵害したりする表現を
見かけたとき、どうしたらいいのか。さらに、事実関係は正しく表現に穏当を欠
いていないけれども、この発想が社会に広まってはマズイと思われる場合などど
うしたものでしょう。
 やはり言論には言論で対抗するのが筋というもの。特に、若い時に税金で教育
を受けた人間は、自分の専門分野に無茶苦茶な話が広まるのを止めにかかる義務
があるように思います。
 前にも書きましたが、私はNHKの「プロジェクトX」は有害コンテンツだと
思っています。嘘八百並べているとか、詳細で迫力のある性的動画の宝庫とかい
うのでありませんが、番組の根本にある科学技術思想を、社会が共有してほしく
ないからです。「科学技術は万能で、解決できない問題はない」という、「理化
学的根性論」とか「技術者ドラえもん化思想」とか「ヘルメットをかぶった水戸
黄門」とでも呼びたくなるやつです。
 同じNHKでも「魔改造の夜」などは、失敗の重要性を教える優良な番組だと
言えます。本当に新規性のあるプロジェクトは、構想段階も含めれば99%失敗す
るという経験則があるようですが、私に参画させていただければ、あと1%上乗せ
する自信があります。

 トンネル穿かず、見方を穿て

 今回、私が見逃せないと思ったのは、2026年1月24日(土)に拡大版で放送され、
いまでもNHKプラスでも視聴可能な、「新プロジェクトX~挑戦者たち~」にて
「半世紀の悲願 北陸新幹線~飯山トンネルを穿(うが)て~」です。


半世紀の悲願 北陸新幹線~飯山トンネルを穿(うが)て~,NHK,
https://www.web.nhk/tv/pl/series-tep-P1124VMJ6R

 最初に断っておきますが、内容の真実性にケチをつける気はありません。それ
どころか、大きな落盤があっても、一人の犠牲者も出さなかった熊谷組などの安
全管理には、最大の敬意を払うつもりです。
 けれども、いかがわしいのは「悲願北陸新幹線」「トンネルを穿て」といった
昭和的な見出しが、「小浜・京都ルートも頑張ればなんとかなる」というメッセー
ジを含んでいることです。念のためもう一度結論を言いましょう。いくら頑張っ
ても、何ともならんもんは何ともなりません。飯山と丹波では条件が違いすぎま
す。小浜ルートが不可能性に満ちた悪夢のプロジェクトだという話は、これまで
に記事30本も書いてきたので、いまさら焼き直しをしても仕方ありません。今回、
飯山トンネル関連を調べていて新たに分かった事を書き留めてみましょう。
 まずはトンネルの長さです。現在の発表では、新小浜駅(仮称;以下同様)か
ら京丹波市のあかり区間まで35kmほどのトンネル(仮に「東小浜トンネル」と
呼びましょう)に対して、飯山トンネルは23km以下でかなり短めです。
 貫通までの工期は、飯山が約7年半とのことですが、乱暴に計算すると23000m
÷(7.5×365)で、一日あたりの掘削速度が8.4mということになります。工区
の数は6で、両端の工区では各1か所、それ以外の4つでは各2か所の「切羽(き
りは)」があります。切羽とは掘削作業の最前線となる場所のことで、合計10か
所の切羽で同時にトンネルを「穿って」いたということです。
 一つの切羽の掘削速度は平均で0.8~0.9m/日ということになります。多めに
見積もって1.0m/日としましょう。ちなみに、この見積もりは以前の北陸新幹線
の記事で私がしたものと、大きく変わりません。


竹槍戦隊大本営【北陸新幹線 その12】,長屋(村山恭平),
http://nagaya.tatsuru.com/mt/mt-search.cgi?search=%E8%87%AA%E5%8B%95%E8%BB%8A%E9%81%93&IncludeBlogs=17&limit=20&button=

 では、長さ35kmぐらいはある問題の「東小浜トンネル」について計算してみま
しょう。予定の掘削期間は15年とされていますから、最低でも6か所の切羽が必要
で、工区を4つ以上に分けることになります。両端以外の中の工区は斜坑を作って
現場の地下まで行き、トンネルの中程から掘り始めるしかありません。
 工事中に斜坑から運び出す残土の量を計算してみましょう。トンネルの断面積
は80平方m。毎日1m進むとすれば、80立方mで約200tの残土が発生します。1つ
の工区には切羽が両側に2つありますから、斜坑から出てくる土砂は400t。10t
積みの大型ダンプで40回分。往復で80回、ダンプが毎日通る作業道が、斜坑から
最寄りの幹線道路(国道162号しかない)まで必要になります。1日に16時間(た
とえば朝6時から夜10時まで)稼働したとしても、1時間に5台。つまり、15年間に
わたって12分に一回は大型ダンプが走りことになり、そんな道はとても生活道路
としては使い物になりません。そのため、土砂搬出要の専用道路が必要になり、
それだけでも結構な環境破壊です。用地買収に応じる地主がどれぐらいいるので
しょうか。それやこれやで掘り始めるまでに数年は要するでしょう。着工後の
「土埃」とか「騒音」とか「交通事故」とか「道路沈下」とか言わないで下さい。
そこまで面倒見切れませんから。
 そもそも、作業道以前に斜坑自体がつくれるのでしょうか。トンネルの半分以
上(20km前後)を占める京都府内の2市のうち、北よりの京丹波市は熱心な新幹
線反対派で、早くから議論を先取りして、わざわざ「斜坑」という言葉を使って
拒否宣言をしています。南よりの京都市も市議会が反対決議を上げています。も
し彼らを説得できるとしても何10年単位の時間がかかるでしょう。その問題を回
避して、斜坑なしで20kmのトンネルを一気に「穿つ」と、27年以上かかることに
なります。まあ、どっちにしろ30年仕事、非常に気の長いことです。

  想定された想定外と想定外を想定しない行政

 これまでの計算は全てが順調にいった場合の話です。「プロジェクトX」に出て
くる飯山トンネルでも落盤などのトラブルはありましたが、東小浜トンネルでも、
せいぜいその程度(おいおい......)のトラブルで済むと仮定しての工期計算です。
 状況を比べてみましょう。長野・新潟県境にある飯山トンネルのルートは、飯山
街道と呼ばれた古くからの交通の要路で、現在は国道292号など多くの道路が併走
しており、古くから開発されたエリアです。だから、地元の建築会社などにはか
なりの地質データの蓄積があったはずです。
 さらに、トンネルを掘るに際しても、十分な時間と人員とコストをかけた調査
研究が行われていました。着工の12年前にすでに、現地での工法に関する研究論
文まで書かれています。最終的には、この専門雑誌だけで、「飯山トンネル」が
表題・副題になった論文が13本掲載されました。十分な調査と研究に基づき、満
を持して工事を始めたことがよく分かります。


 膨圧層克服に自信を深めた飯山トンネル 北陸新幹線調査坑試験報告,鉄建公団
他,
 トンネルと地下6月号,1988,
 https://tunnel.ne.jp/underground/3829-6052/

 一方、我らが「東小浜トンネル」は、手つかずの自然林と言われる「芹生の森」
付近を延々と行くルートで、併走する国道どころかまともな道路もほとんどなく、
集落さえ皆無な場所に「穿ち」に行くわけです。地質データの蓄積など皆無でし
ょう。
 ルートが決まっていないので仕方ないのかも知れませんが、上に引用した学術
専門誌にも敦賀以南のトンネルに関しては、いまだに(2026年2月現在)1本の論
文も出ていません。それでも「今年度中に着工を」などと叫ぶ人がいます。「目
をつぶって突撃せよ」と言われるのと同じですから、現場で何がおこるか不明で
す。
 敵情を調査研究し、それに基づく戦術を徹底的に訓練して事に望んだ「真珠湾
攻撃」と、相手の戦力を甘く見て突っ込んだ「ミッドウェー海戦」の違いで、す
でに結果は目に見えています。
 こんなことを書くと、「また年寄りが悲観的なことを言って社会の足を引っ張
る」などと言われをうえですが、「着工後に想定外のことが次々とおこり、いつ
まで立っても完成時期の予想や建設費の全体像すらわからない」という泥沼状態
は、リニア中央新幹線や北海道新幹線の現場で、今実際におこっていることです。
 そのリニアや北海道に関してさえ、上記の専門誌に多数の研究論文が掲載され
ています。だから論文0ということは、ゼネコンの研究部門でさえ「東小浜トンネ
ル」については、ほとんど何の知識も何の準備もないとしか思えません。もしか
したら、着工となっても落札する気がはじめから無いのかも知れません。大手が
見向きもしなかった万博工事の悪夢が思い出されます。

 少なくとも、小浜ルートの工期や工費に関して現在発表されている数字は、専
門家が資料に基づいて計算したものではなく、ただのファンタジーです。いつも
のポエムで申し訳ありませんが、工期はエンドレス、工費はプライスレス、採算
性はホープレスということになります。それでも、とにかく着工してしまおうと
する小浜ルート関係者の度胸と無責任と反知性主義に、改めて悪寒が走る思いで
す。

 令和の川口浩探検隊

 プロジェクトXからだいぶ話がそれました。今回、飯山トンネルについて調べ
ていて、一番笑ったのは、トンネルコースの1km横に「地滑り資料館」という博
物館があったことです。同館によれば、約700年前の鎌倉時代末にはすでに付近が
地滑り地帯だということはよく知られており、人柱伝説にまで作られていました
(伝説どころか人柱と思われる人骨まで出土しました)。同館の開館でさえ
1992年ですから、2000年の着工時点では付近一帯が「ブランド物」の地滑り地帯
であることは、周知されていました。


 人柱供養堂,新潟県,
 https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/jouetsu_sabou/1354572113082.html

 トンネル工事中の地滑りによる落盤事故も、ある程度は着工前から織り込まれ
ていたから、犠牲者が出なかったのでしょう。これはもちろん偉大な事なのです
が、いわば「想定された想定外」で、「プロジェクトX」が描く、「突発事故に
現場が機転と根性で対抗した」というシナリオとは随分と印象の違う話です。現
場の技術力や決断力には大きな敬意を払いますが、それが発揮できたのは事前の
地味な準備と、それを容認した経営陣や施主である行政があってのことです。逆
に、想定を怠ったための想定外は、たいてい大惨事になります。
 「テレビなんだから仕方ないじゃない」と言ってしまえばそれまでですが、だ
とすれば「プロジェクトX」は民放のバラエティーと大差ないということになり
ます。政財界はともかく教育関係者からもそれなりに評価されている分、タチが
悪いとさえ言えます。有害番組だという根拠はここにあります。
 現実の医師がドクターXではなく銀行員が半沢直樹ではないのと同様。現場技
術者は川口浩探検隊長ではありません。出来ない事は出来ないのです。


川口浩探検シリーズ,テレビ朝日,
https://douga.tv-asahi.co.jp/program/37089-37088