『武蔵ばり二刀流のリアルな日本の逆襲』

「日本の自動車産業はEVシフトに乗り遅れた。もうガラパゴス化は免れない」・・・少し前まで、メディアやSNSにはそんな悲観論が溢れていました。欧州や中国の「一斉EV化」の猛威を前に、ハラハラしていた方も少なくないのではないでしょうか。

 しかし、日本のものづくりはそう簡単に白旗を上げてはいません。今、トヨタを中心に「日本勢の逆襲」とも言える、きわめて合理的でワクワクするような大逆転劇が幕を開けようとしています。

 以前、「電気自動車はまだ買うな!」というブログでも書かせていただきましたが、その主軸となるのが、「水素エンジン」「全固体電池」。単なる環境対策を超えた、ゲームチェンジャーたちの現在地を調べてみました。

 まず、モータースポーツの現場で着実に実績を積み上げている「水素エンジン」。 これは「燃料電池車(FCV)」のようなEVの親戚ではなく、れっきとした「内燃機関」です。これまでのガソリン車と同じように、ピストンの中で燃料を「爆発」させて走ります。ガソリンの代わりに水素を燃やす、ただそれだけです。

 これの何が素晴らしいかと言えば、あの「ブォォォン!」という心地よいエキゾーストノートや特有の振動がそのまま残ること。「エコなクルマは静かすぎて、どうも五感に響かない」という、私のようなクルマ好きのロマンを置き去りにしません。

 さらにビジネス視点で見れば、日本が世界に誇る「エンジンサプライチェーン」や熟練の職人芸をそのままスライドして活かせるという巨大なメリットがあります。雇用を守り、既存の強みをレバレッジしながら、マフラーから出すのは「水だけ」という究極のクリーンカー。これは極めて賢い生存戦略だと思います。

「そうは言っても、世界の主流はEVでしょ?」という現実的な視点に対しても、日本は本命のキラーカードを隠し持っています。それが「全固体電池(オールソリッドステートバッテリー)」です。

 現在のEVが抱える「冬場の航続距離低下」「充電時間の長さ」「熱暴走による火災リスク」。これらはすべて、バッテリー内部の電解質が「液体」であることに起因しています。 これを「固体」に変えることで、エネルギー密度を劇的に高め、構造的な弱点をブレイクスルーするのがこの技術です。ガソリンと大差ない時間での急速充電。一回の充電で1000Km以上(東京から福岡)の巡航を可能にします。私が以前所有していた電気自動車の航続距離は400kmほどでしたから、その2倍以上。これなら「次の一台はEVでもいいか」とマジョリティ層に思わせる説得力があります。2027〜2028年の実用化に向けて、今まさにカウントダウンの段階に入っています。

 この2つの技術が噛み合うと、カーボンニュートラルの世界が一気に現実味を帯びてきます。そもそも現在のEVは「走行時はクリーンだが、製造(特に巨大なバッテリー生産)段階で大量のCO2を排出する」という、ライフサイクルの観点での矛盾を抱えています。全固体電池による製造効率の向上は、この歪みを正す一手になりえます。

 さらに水素エンジンは、EVのようにリチウムやコバルト、ニッケルといったコモディティ(レアメタル)への依存度が極めて低いそうなのです。昨今、問題視されているレアアースへの依存度も極めて低いわけです。「資源の囲い込み」という地政学的なパワーゲームから一歩距離を置けるという意味でも、非常にタフな選択肢になり得るのです。

 と、ここまで景気の良い話ばかりを並べましたが、大人のビジネスパーソンなら「そんなに上手い話ばかりではない」ことは百も承知でしょう。特に「水素社会」の実現には、まだいくつかの重い課題が横たわっています。

 一般的なガソリンスタンドの建設費に比べ、超高圧・超低温を扱う「水素ステーション」の建設には1箇所あたり数億円規模の投資が必要です。現状、エンドユーザーが手にする水素の価格自体も、ガソリン比でまだ割高感を拭えません。ただ、既存するガソリンスタンドを改造しての水素充填スタンドのインフラ確保の研究がかなりの速度で進んでいるようです。

 インフラがないから普及しない、普及しないからインフラ投資回収ができない。この典型的なループをどう断ち切るか。まずは長距離トラックや路線バスなど、ルートが固定された「商用車」から社会実装を始め、段階的にコストを下げていく長い地道なアプローチが求められています。

 トヨタは、既に水素エンジン車「Mirai」を販売していますし、水素エンジンの技術をさらに鍛え上げるため、スーパー耐久シリーズの「富士24時間レース」に参戦しています。宇宙で最も軽く、漏洩しやすく、燃焼時の炎が目視しにくい水素。いくら技術者が「車載タンクはマシンガンの掃射にも耐える超強度」と太鼓判を押したところで、「700気圧の爆弾を積んで走るようなものだ」という一般ユーザーの心理的バイアスを払拭するには、まだ少し「実績の積み重ね」という時間が必要です。

 これまでの世界は、あたかも「ガソリン車は悪、明日から全員EVに乗り換えよう」と言わんばかりの極端なパラダイムシフトを煽ってきました。 しかし現実は、地域によって発電事情(火力発電依存度など)も違えば、インフラの整備状況も、クルマに求められる役割も千差万別です。

だからこそ日本勢(トヨタ)が掲げる、「全固体電池で最高峰のEVを仕込みつつ、水素や内燃機関の可能性も絶対に捨てない」という全方位的作戦は、今や世界中から「実は一番現実的な正攻法だったのでは?」と見直され始めています。

 一見、トレンドに乗り遅れた愚直な遠回りに見えて、実は全方位に網を張っていた日本の技術力。インフラの壁をブレイクスルーした先に待つ「日本勢の逆襲」、ビジネスの観点から見ても、なかなかしびれる展開だと思いませんか?