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2006年05月30日
スーさん、高校総体ソフトテニスに男泣き
5月29日(月)
感動・興奮の余韻が醒めやらぬままに月曜日を迎えた。
教師冥利に尽きるとはこのことか。何より、教え子たちの活躍ぶりを目の当たりに出来ることほど、教師にとってうれしいことはない。そもそも、それが動機で教師になろうと思った先生も多いのではなかろうか。
この土日に行われた、県高校総体ソフトテニス競技のことである。以前の日記(5/1)で、県東部地区予選のことを書いた。あれから1ヶ月。いよいよ、勝負の県予選の日を迎えたのである。
天気のことが心配だった。予報によれば、団体戦の行われる土曜日は、終日雨とのことであった。前回も書いたが、沼津のK学園高女子ソフトテニス部に所属している前任校の教え子たちを応援するため、また、高校生たちが最も気合いを入れて取り組むこの県総体だけは、何としても本校テニス部員たちに見せてあげたいと思い、希望者を募って浜松から試合の行われる静岡市の草薙テニスコートまで、電車で観戦に行く予定にしていた。予報はともかく、土曜日の朝に土砂降りでなければ出かけていくことにした。
その土曜日、起きて外を見てみると微雨であった。K学園高のスガイ先生からも、「決行です」とのメールが入る。部長宅に電話して、「予定どおりに駅集合ね」と連絡し、浜松駅へと向かった。静岡市までは、東海道本線で1時間余。そこから静岡鉄道の駅まで歩いて、新静岡駅から草薙運動場駅まで。テニスコートに近づくと、ボールを打つ音とともに喚声が聞こえてくる。自然、急ぎ足になる。
会場に到着し、生徒たちには観戦のポイントを指示して解散させ、とりあえずスガイ先生をさがすことにする。K学園高の荷物置き場へ行くと、初戦の試合を終えた選手たちがいた。教え子の一人であるK原崎は3年生。今回が最後の県総体である。インターハイ出場が叶うかどうか、最後の勝負なのである。「緊張してるだろ」と声をかけると、「ちょっと」と笑顔が返ってきた。顔は笑っていたが、目は真剣だった。「やる気でいる」と感じた。ペアのK谷(2年生)がいた。いくら同じ中学校の出身とは言え、先輩と後輩である。監督の話によれば、試合前から「K原崎さんの最後の試合を、自分のせいで台無しにしたらどうしよう」などと言っていたそうだ。当然そう考えるであろう。そういうこともあってか、スガイ先生からは「K谷の調子がいまいちなんですよ」と聞かされていた。そのK谷には、「いいか、今日と明日は徹底的に自己中になるんだぞ。自分のプレーのことだけ考えてやるんだ。試合を見ていた人たちから、『なんて自己中なの!』って言われるくらいに、自分のことだけ考えればいい」と話をした。真剣に聞いていた。これならいけるかもしれないと思った。
試合が始まった。雨はそんなにひどくはない。が、止んではいない。2回戦を難なく突破し、準々決勝。相手は、K原崎やK谷の中学時代の同級生が選手として出場している浜松の学校である。「ヘンに意識しなければいいけど」と思いつつ見ていた。このころになると、雨がだいぶんひどくなってきた。悪い方に影響しなければいいが…とも思いつつ試合が始まった。K学園の大将ペアは難なく勝ったが、K原崎ペアは一進一退の攻防である。やはり意識してるんだろうかと心配していたが、次第に攻勢に出たK原崎組が粘る相手を振り切って勝利、これでベスト4である。
雨が少し弱まって、準決勝が始まった。互いに大将ペア同士の対戦は、K学園が鎧袖一触で相手大将ペアを退けたが、K原崎組は途中からボールを繋ぎだした相手後衛にK原崎のリズムが合わなくなり、ミスが重なって敗戦、勝負は3番に持ち込まれた。その3番、K学園がゲームカウント3−1とリードするが、相手も粘って盛り返しゲームカウントは3−3。流れは、完全に追いついた相手のものであった。ファイナルゲーム(タイブレーク)は7ポイント先取であるが、K学園ペアはまったく流れに乗れないままに、ポイントは1−6。相手の5本マッチである。「ああ、せっかくここまで勝ち上がって来たのに、決勝を目の前にして敗戦かあ」とは、K学園を応援していた誰しもが思ったことであろう。しかし、勝負の神様はとんでもないドラマを用意していたのである。
相手は、あと1本取りさえすれば勝利である。しかし、そのことが逆に相手を硬くさせてしまったのだろうか、ただミスをしないようにとボールを繋ぐだけのK学園後衛に対して、相手後衛が力みのためかミス、とりあえず1本はマッチを凌いだ。これで2−6。次は、やはりボールを繋ぐK学園後衛に対して、相手後衛も同様にボールを繋ぎだした。そのコースを変えてくるロブをK学園前衛が思い切ってスマッシュにいった。このスマッシュを打った前衛はついこの4月に入部したばかりの1年生である。よくぞ打ったと思う。これで3−6。あとから思えば、このスマッシュが勝敗を決めた。その後は、相手がひたすらミスを繰り返し、あっという間に6−6。K学園が追いついたのである。しかも、次のポイントは相手前衛がアプローチショットを大きくアウトしてK学園の逆マッチ。しかし、ここでそれまで大事に打っていたK学園後衛が打ちに出てミス、ポイントは7−7。胃がきりきりと痛むような息詰まる攻防も、最後は再び先にマッチを握ったK学園に対し、相手後衛が力尽きて9−7でK学園が勝利したのである。
「こんなことってあるの?」とは、この試合を見ていた誰もが抱いた感想であろう。試合後、K学園コーチのイデさんが「たとえ1−6相手マッチでも、諦めたらダメだって教えなきゃいけないんですね」と大きく息をつきながらしみじみと言っていた。高校生の試合はわからない。K学園、奇跡の逆転劇だったのである。
こうなれば、一度は死んだ身、決勝は予想どおり東部大会決勝で敗戦した相手だから、ただまっすぐに向かっていくだけである。インターハイの団体は、各都道府県の優勝校のみが出場できる。決勝で勝つと負けるとでは、それこそ天国と地獄ほどの違いがあるのだ。
その決勝戦が始まった。東部大会の時とは違って、大将同士ががっぷり四つに組む対戦となったが、もはやK学園の勢いは止めようがない。K学園大将ペアは、1ゲームを落としただけで完勝。隣でやっていたK原崎・K谷の「KKコンビ」も、テンポのいいテニスでゲームカウントを3−0とリードする。しかし、前衛のK谷がミスし出して2ゲームを落としてしまう。やはり、2年生にはこの重圧は耐えられないのかと思っていたが、気を取り直して臨んだ第6ゲームは、それまでのようにK原崎がびしびしといいコースに打ち込み、K谷も確実にポイントを決めてマッチ、最後は後衛同士のラリーからK谷がバックボレーを決めてゲームセット!その場にへたり込むK谷と、泣きながらネットに駆け寄るK原崎。K学園の応援席がどうなっていたのかはご想像にお任せする。ベンチにいた選手たちが次々と抱き合いながら、感泣の輪ができる。見ていたこちらも、思わず目頭が熱くなってしまう。
実は、スガイ先生にとっては初のインターハイ団体出場だったのである。それまで毎年のように個人戦ではインターハイに出場していながら、団体戦では県大会で苦杯を嘗めさせられてきた。インターハイ団体戦出場は、スガイ先生にとっても悲願だったのである。いやあ、ほんとうによかった!(以下のURLで地元紙に掲載された記事を写真付きで見れます。http://blog.golfdigest.co.jp/user/gofpaipu/ちなみに、写真はKKコンビです)
そのまま沼津へと同行して、祝勝会に参加したかったのだが、こちらは生徒を引率している身、無事に生徒たちを浜松まで送り届けなければならない。後ろ髪を引かれる思いで、試合会場を後する。途中、オノちゃんから何度か連絡が入り、優勝したことも知らせると、「試合の様子を聞きたいから、浜松に帰ったら飲みましょう!」ということになった。オノちゃんたちは、土曜日ではあったのだが授業参観かなんかで出勤、夜はPTAとの宴会をやることになっていたのである。さっそく浜松に到着後、いつものお店に出向いてオノちゃんやヨッシーを待ち、合流したところで、スガイ先生は抜きのまま「優勝おめでと〜!」と乾杯。もちろん、それが得も言われぬおいしいお酒であったことは言うまでもない。
さて、翌日は個人戦。オノちゃんらも観戦に行くとのことで、いつものアルファードで静岡まで。「もう団体でインターハイに出られるんだから、欲はかかずにやればいい」とは、大人の分別と言うのであろうか、試合会場で会ったK原崎もK谷も、前日の感激は「それはそれ」という感じで、きりっと引き締まった厳しい表情をしていた。こういう顔を前にしては軽口も叩けない。二人ともやる気なのである。「がんばれよ」とだけ短く伝え、試合を見守ることにする。
試合が始まった。初戦はどうかと思っていたが、失ゲームなしで完勝。実は、昨日の試合から、K原崎のプレースタイルが変化していることに気づいていた。雨ということもあり、スガイ監督がK原崎にライジング打ち(ボールがバウンドしてくる上がり端を打ちにいく打法)を指示したというのだ。ソフトテニスで使用されるボールはゴム製である。水滴や砂等がボールに付着すると、ドライブ回転を過度にかけたときにボールがホップしてしまうのである。そのことを危惧したスガイ監督がライジング打ちを指示したのである。これが見事に奏功した。それまでK原崎は、自信のプレースタイルを模索していた。しかし、これというものがつかめないままに今回の県大会を迎えていたのである。雨ならば迷うことはない。K原崎は小兵である。ボールの力不足はどうしても否めない。しかし、ライジング打ちならば、小兵のK原崎でもハードヒッターたちに十分対抗できる。スガイ監督の慧眼たるや確然、もちろんそれも練習の裏付けがあってこそのことなのである。
一度、自分のプレースタイルを会得した選手は、そうは負けない。16本取りで昨年インターハイに出場したペアとも対戦したが、ゲームカウントこそ3−3になったものの、終始ゲームをリードして勝ち、8本取りへ。この試合に勝たなければインターハイはない。県からインターハイに出場できるのは6組。ベスト8に入らなければ、権利はないのだ。対戦したのは西部地区の優勝ペア。この試合も、ファイナルゲーム5−5まで競り合いになったが、最後まで集中力を切らせなかったKKコンビが勝利してベスト8。
迎えた準々決勝は、K学園高大将ペアとの同士討ちとなった。互いに手の内を知り尽くしている相手だけに、ゲームは一進一退。しかし、3年生の中にただ一人混じった2年生のK谷、いかんせんその技術の違いが目立ちはじめ、そのまま2−4で敗戦。インターハイに出場するには、準々決勝で敗退した4組による熾烈なリーグ戦を勝ち上がっていかなければならない。
「同士討ちで負けたのなら仕方がない」と、その敗戦にさばさばしていたと思いきや、K原崎はよほど悔しかったらしく、監督の話によれば荷物置き場で泣きじゃくっているという。「おいおい、そんなことしてる場合じゃないでしょうが」と声をかけようとしたが、こういうときにはしばらく放っておいた方がいい。ようやく泣き収まって、水道で顔を洗っているところへ行き、気持ちを入れ替えて試合に臨むよう話をする。
リーグ戦が始まった。K原崎は淡々とゲームをしているようも見えたが、気持ちは入っていたのだろう、1本取るごとに、顔つきが引き締まっていくのがわかった。この試合もファイナルゲームにもつれ込んだが、何とか勝つことができた。2試合目は、いきなり2ゲームをリードされるが、追いついてまたもやファイナルゲーム。しかし、残念ながらこの試合は落としてしまう。他のペアの勝ち負けを考えると、最終戦で勝たなければインターハイ出場はない。しかし、相手は既に2敗して、かなりモチベーションが下がっていると思われる相手であったから、たぶん勝てるだろうと思っていた。案の定、この試合は苦戦することなく勝つことができた。それにしても、最後のマッチポイントは、4回目にしてようやくものにすることができた。インターハイとは、かくも険しき道のりなのである。
個人戦での出場が決まったあと、KKコンビは二人とも号泣であった。今まで緊張感から解放されたうれしさも手伝ってのこともあろう。握手を求めると、またそこで二人とも泣き出してしまった。「よかったな…」と声を絞り出すのが精一杯であった。
かくして、すばらしき2日間が幕を閉じた。応援で声を張り上げたせいか、今日は授業で大きな声が出せなかった。ずいぶんと疲れていたが、心地よい疲れであった。
スガイ先生、初のインターハイ団体出場、おめでとう!そして、すばらしいゲームを見せてくれてありがとう。何より、教え子たちをすばらしい選手に育ててくれたことに、心から感謝!です。
K原崎、3年目にして念願のインターハイ出場、ほんとうにおめでとう!わざわざ沼津まで行った甲斐があったね。K谷、上級生とのペアはかなりしんどかったと思うけど、その華奢な体でよくがんばった!そうやってがんばったから、2年生でインターハイに出られるというご褒美が貰えたんだよ。もう一人、Oは残念ながら今回は地区予選で終わってしまったけど、その悔しさ忘れずに臥薪嘗胆、K原崎のように最後の年にインターハイ出場を目指そう!
さて、今年のインターハイは大阪。もちろん、応援に行きますよ!スガイ先生、選手のみんな、がんばってくださいね〜!
投稿者 uchida : 2006年05月30日 21:59
コメント
卒業生のインターハイ出場おめでとうございます。1-6からの逆転劇。お互い真剣勝負だからこそですね。追う者と追われる者。こうゆうときは後者が強いのでしょうか?
京都は次の土日が最終予選です。今年卒業した教え子(前衛で浜松オープンでもお世話になりました。)が3年生と組ませてもらって予選を勝ち抜き府予選に出ます。今の学校に転任して初めての生徒です。頑張ってほしいものです。大阪のインターハイでお会いしたいものです。
投稿者 h-kishi : 2006年05月31日 18:28
h-kishiさま
いつもご愛読ありがとうございます。
そうなんですよ、2日間いい試合を見せてもらいました。「これだからテニスはやめられない」って実感しました。
ぜひ、大阪でお会いしたいです。吉報をお待ちしています。
訂正:後者→前者 の誤りでした。
3・4日が府予選なのですが、土曜参観や宇治市の審判講習会で観に行くことができません。緊張せずに全力を出し切るようにと言いましたが、こちらが緊張しているのかも?
投稿者 h-kishi : 2006年06月02日 22:01
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