赤巻紙青巻紙黄巻紙

 7月16日。今日も朝から語学学校へ一人で向かっている。4日ほど前からマディソンのダウンタウンにある英語学校へ通っているのだ。週末に受けたクラス分けテストで下から二番目のクラスに入れられて、晴れて中学生レベルのクラスでBe動詞や動詞の変換について学んでいる。学ぶのはグラマー、リーディング、ライティングの三教科。そしてビザの関係で一週間渡米が遅れた私は、下から二番目のクラスに新たに加わった転校生ということになる。月、水、金がグラマーとリーディング。火、木がライティングで、すべて午後に1時間50分のクラスである。
 ともあれ、中学生レベルのクラスなので、クラスメイトがとにかく若い。どのクラスにもコロンビア人や中国人やインド人がだいたい居て、あとは日本人が一人とサウジアラビア人や韓国人が混じっているイメージ。そのほとんどがティーンエイジャーなので、授業はとにかく騒がしいし、ティーンならではの純粋さもあって、ほほえましい場面もある。

 クラスには明らかに中二病のナイジェリア人の男の子もいるし、コロンビア人のナタリアは鼻ピアスをしている割に一人でトイレに行けなくて中国人の17歳のジェニーを強制連行する。ジェニーはジェニーでナタリアの用の足すのをトイレの前でじっと待っているし、日本人の19歳の美咲は授業中にメキシコ人の男の子と手紙の交換をしている。どこの国かわからないけど、幼い顔にちょび髭をたくわえたモハメドは、いちいちわからないことがあると授業の腰を折って「ティッチャー!」と先生を呼び止めて個人的な質問をするし、コロンビア人のマリアは他の人があたっていたってお構いなしに、「答えはAじゃないの?!」と叫んでいる。入学してすぐかいがいしく世話をしてくれたコロンビア人のヴィクトルは、テストで間違えたら、隣りでこっそり不正な書き直しをしていたりもする。
とにかく動物園のようなクラス。昨日は早口言葉(Tongue-twister)についての記述があり、私は「赤巻紙、青巻紙、黄巻紙」を披露するはめになった。意外と早口言葉が得意で、「赤巻紙、青巻紙、黄巻紙」と滞りなく日本語で言ってみせると、その意味も分からないのににわかにクラス中にどよめきが起こり、ほうぼうで自分の国の早口言葉を披露する時間となった。
 先生の話も聞かずに得意げに自国の早口言葉をべらべら披露する生徒たちを尻目に、先生がうつむいたままの中二病のナイジェリア人に「あなたの国の早口言葉は?」と尋ねると、ナイジェリア人はおもむろに顔を上げて「忘れた。」と言ってまた自分の世界に戻ろうとした。たいてい「忘れた」とか「わからない」しかこの男は答えない。すると、「あなたって本当にシャイね!」とすかさず先生が中二病をするどく指摘したので、こじらせ男はぱっとプライドの傷ついた顔をして、「本当に忘れたんだ。」と無表情で答え、すぐに大真面目に「次の授業までには思い出す」と言い訳をしたから吹きそうになった。「逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ」。というアニメのセリフが私の脳内をよぎる。

 いずれにしても、クラスが始まって4日目。面白おかしくティーンを観察している割に私自身はというと、このティーンエイジャーたちとテンションが違いすぎて、まだ一人も友達ができずにいる。とどのつまり、クラスでいうところのいわゆる「ぼっち」状態なのであった。