高雄啓三の「ボストンのお茶会」・2003

Keizo Takao's Boston Tea Party

 

2003年11月11日

内田先生

例によってご無沙汰しております。

アメリカでの生活を初めてちょうど2年が経ちました。

そしてとうとう、やられてしまいました。

洗礼とでも言うのでしょうか…。

 

一ヶ月ほどボストンから離れていたのですが、

帰ってくるとなにか空気が違うのです、

私の愛車HONDA CRXのまわりの空気が。

 

よくよく車を見てみると、

当然鍵をかけてある筈なのですが、

運転手側のドアを引くと普通に開いてしまいます。

??

よくよくドアを見てみると鍵のまわりに穿った跡が…。

そう、荒らされてしまったのです。

最初見たときは意味が分かりませんでした。

じーっと壊された鍵の部分を見つめていると目が回ってきました…。

 

ちょっと落ち着いてまわりの路上を見てみるといろんなものが散乱してます。

よくみるとすべて私の車の中にあったものでした。

うーん。

とりあえずすべて回収して何が無くなったのかを調べます。

無くなったのは灰皿に入っていた小銭、十数ドル。

それとちょっとした工具類でしょうか。

だいたい被害総額3000円といったところです。

 

初めての犯罪巻き込まれです。

とりあえず、警察へ電話。

といっても日本の警察とは違いますから誰一人死んでないのに動いてくれたり

はしません。

電話で被害状況を説明するとレポートを作ってくれるだけです。

保険に入ってる場合はこのレポートが重要になってくるわけですが、

私の場合、古い車だし、事故った時には車をあきらめるつもりだったので

車体に関する保険には入っておらず、このレポートは何の意味もありません。

 

そして修理工場へ自分で運転して運びました。

窓ガラスにもこじ開けようとした跡があって、

スピードを出すとすきま風が入ってきます。悲しい。

 

修理工場ではドア全体の交換が必要との結論。

1000ドル強の出費です。

高々十数ドル盗まれただけなのに、やるせないです。

 

修理工場に預けたその足で保険会社へ、

今回のような車上荒らしにも対応する保険にしてもらいました。

「これで今夜何かあっても大丈夫ですよ」と言ってもらって安心して帰る。

 

数日後、ドアを取り替えてもらったCRXはついでに洗ってもらえたらしく、

全体的にぴかぴかしててあたかも新車のようでした。

 

しかし、これが裏目に出たりします。

 

それから一週間も経たないうちに次の事件は起こります。

朝、たまには研究室に車で行こうかと近づいてみると、

今度は助手席側の窓ガラスが粉々に…。

???

車のガラスが粉々になってる車というのはかなりショッキングな映像です。

ほんと、トラウマになりそうなぐらい。

ええ、希望者には写真をおわけします。

 

とはいえ、感覚がすでに麻痺してしまった私は

とりあえず警察に電話。

その後に保険会社へ電話。

契約を変えた直後でちょっと気恥ずかしかったです。

そして今度は保険会社の指定する工場へ。

驚いたのは車の窓ガラス専門業者というのがやたらあったことです。

ほんの車で20分ほどの距離のお店に行くまでに同じようなお店が20軒以上

ありました。

日本じゃ車の窓ガラスだけを扱ってるお店なんてないですよね?

こっちでは乱立してても成り立つぐらいに窓ガラスを割られることが日常茶飯

事なのでしょう。

 

結局、こういった車上荒らし程度の軽い(?)犯罪はやったもん勝ちというの

がこの国の状況です。

欲しいものは奪えばよいという、まるで原始時代ですね。

 

この国がいつまでたっても戦争をし続ける理由がよく分かります。

早く日本に戻りたいものです。

 

ちなみに今また学会で2週間ほどボストンを離れているのですが、

車が心配です…。

 

ボストンはもう雪が降ったりしてずいぶん寒くなってるようなので少し安心し

ています。

こういう犯罪は寒くなると起こらなくなるんです。

外でふらふらしてると凍えちゃいますからね。

問題なのはモラルじゃなくて気温なんです。

 

財布を落としても手付かずで戻ってきた日本が恋しいです。

 

それではまた。

 

高雄啓三

 

2003年7月17日

 

内田先生

こんにちは。

ますますご活躍のようでなによりです。

いろんなメディアで内田先生の名前を見かけるようになったからでしょうか、私のところにもたまに友人達からウチダタツルに関する問い合わせが来たりしてます。

そんなとき自分のページがしばらく更新されてないとちょっとさみしいですね…。

これからもマイペースでおくらせていただきます。

 

 

さて、ボストンもいよいよ夏になってます。

というか、暑いです。

連日30℃を超えるような日が続いたりもしてます。

そんな日は毎年真夏の真ん中に数えるほどしかないはずなのに、今年は6月も7月も暑いです。

かと思うと梅雨のように雨が降り続いたり。

ガイドブックを見ると6月の降水量は0なんですけど。

どうやら今年は(も?)異常気象のようです。

 

7月4日はアメリカの独立記念日です。

この日がアメリカ人にとって一番大切な日なんだそうです。

しかし我々在米の日本人にとっては単なる一祝日に過ぎないし、各地で催されるいろんなイベントに行くのはなんとなくアメリカに帰依してるみたいで気分が悪いですね。

ということでアウトレットモールに買い物に行こうかという話になりました。

ここでも July 4th sale と安売りしてたのですが、それはそれでよいではないかということで。

日本から3ヶ月間研修みたいな形で来ている医学生カオル君と二人でメイン州にあるモールへ。

愛車CRX購入以来最大の遠出です。

延々車を北へ飛ばすこと1時間半、モールに着くのですが、でかい道沿いに点在する店…。

隣り合ってる数軒の店は歩いて回れますが、基本的には店から店へは車を使って移動。

具体的に買いたいものを決めて回ってるのではない人間には結構大変です。

 

さて、そこにショッピングモールとはちょっと雰囲気の違うお店、というか建物がひとつありました。

中に入ってみるとやっぱり服などを売ってるのですが、奥へ入っていくと階段があって矢印が…、

そして、"GUN" と書いてあります。

「え?」

てっぽう、うってるの?

「ねぇ、ねぇ、ちょっと見てみようよ。」

ということでちょっとはしゃぎ気味にカオル君を引き連れて階段を登るとそこには、ズラーっと並んでいました。

銃が。本物の銃が。

とりあえず入口近くにならんでいたのは狩猟用っぽいライフル銃。

手に取ってみると意外に重い。

射撃競技用と同じなのかな?

そっか、そういえばここってスポーツ用品店ぽかったし。

そんなことを考えながら店の中の空気は冷たいのに何故か汗が出てくるのをちょっと拭ってさらに奥へ進んでみる。

するとショーケースの中にズラズラズラッと今度は短銃、つまりピストルが…。

で、買ってる人がいるんです。

子供と一緒に買いに来てるんです。

隣では使い心地を確かめようと構えたり狙いを定めたりしてる人がいるんです。

そして目の前に並ぶ大量のピストル達。

 

急にめまいがして来ました。

さっきの汗は実は吐き気から来てたことにも気付きました。

「出よう、出よう。とにかく出よう。」

とりあえず足早にショーケースから離れて隅の棚へ避難。

ふぅ。

と一息ついて目の前に積まれた箱や、ビニール袋に入ったものを手にとって見てみるとそれは、弾丸でした。

もちろん実弾ですよね。

どんどん頭が痛くなってしまい二人で逃げるように階段を下りていきました。

もう、まるで後ろから撃たれるんじゃないかみたいな気がして…。

ものすごい瘴気に触ってしまいました。

異常です。

こんな国には本当に長居はしたくありません。

 

 

微妙に放心状態になりながらも、なんとか買い物を終えてボストンまで帰ってくることが出来ました。

帰ってからしばらくは研究室で仕事をしていました。

 

独立記念日の夜といえば、こちらでは花火が定番のようです。

MIT のすぐ横にはチャールズリバーという大きな川があって、そこから毎年花火が打ち上げられることになっています。

おかげでMIT のまわりはすさまじい人だかりになっていました。

 

夜の10時頃、花火が始まるとすごい音と衝撃がきます。

研究室にいると戸棚の薬品達がカタカタふるえてちょっとこわいぐらいです。

カオル君がせっかく日本から来ているということで外へ出て、花火を見ましょうということになりました。

日本も今頃は花火の季節だし。

 

でもアメリカの花火は日本のそれとは全然違います。

何が違うって間とか風流とか、一切ありません。

ひたすら連発で上がり続けるのです。どどどどどどー。

そしてもう一つ違うのは川縁20メーターおきに配置された巨大スピーカー達。

大音量で軍隊がパレードしてるような音楽が流れてきます。

それに合わせて花火は上がりまくるのです。

じゃんじゃじゃじゃーん、どどどどどー、じゃじゃーん、どどどどどどー。

もう愛国心、煽りまくりです。

そういう日なんですね。

そこらじゅう星条旗だらけだし。

 

そしていつの間にか音楽の感じが変わってて、何かの歌になってました。

ある人は胸に手を当てて、ある人は胸の前で指を組み、家族達は寄り添って、恋人達は抱き合って、花火に見入っています。

花火はいよいよクライマックスらしく、激しくなってきたかと思えば、なんか花火にしては見慣れない色になってきたんです。

青、赤、白、青、赤、白。

また、青、赤、白、青、赤、白。

ズラーっとならぶ青、赤、白。

あ、これ、星条旗か…。

そして流れてる歌がアメリカ国歌だとやっと気付きました。

やりすぎですね。

 

拍手喝采でフィナーレ。

本当に、まいりました。

 

「アメリカってすごいですね。なんかだまされてもいいっていう気分になっちゃいますね。」

とはカオル君の弁。

本当にこれがアメリカのすごいところです。

だって本当にみんな感動してるんですもの。

まさに”ユナイト”なんです。

話には聞いていても実際に目の当たりにすると本当にこわいものです。

 

日本だけはグローバル化されてはなるものか、と決意を新たにした一日でした。

とりあえず、個人的には脱グローバル化宣言です。

 

先日、岸田さんが弟君と一緒にボストンを訪ねてくれました。

ちょうど忙しいときだったのであんまりお相手できませんでしたが、一緒に食事をして楽しいひとときを過ごしました。

おみやげに和菓子と内田先生のサイン本を頂きました。

さすがです。

おみやげには日本のお菓子と日本の本が一番嬉しいです。

岸田さん姉弟、内田先生、本当にどうもありがとうございました。

それではこの辺で、

失礼します。

(17 July 2003)

 

 

内田先生

 

高雄です。

不本意にもしばらく沈黙していました。

ご無沙汰申し訳ありません。

ここのところしばらく忙しい日が続いてしまい、なかなかメールを差し上げるチャンスがありませんでした。

 

この忙しさに拍車をかけることになってしまっているのですが、そろそろ私のビザが切れてしまうのです。

ほんの一年半前ならばアメリカにいるままで私のビザは延長できたのですが、例の事件以後いろいろと法律や制度が変わってしまい、ビザの延長も本国に一旦帰らなくてはならなくなってしまったのです。

この忙しい時期に…。

しかも本来なら一日で終わっていいはずの延長の審査も、おそらく最低でも三週間はかかると言われています。

この忙しい時期に…。

 

とはいえ、久しぶりに日本でゆっくり出来るめったにないチャンスなので、ある程度仕事は抱えつつも、日本滞在をたのしもうと思っています。

 

さて、この機会に報告しようと思っていて報告していないことを列挙します。

 

1.(かなり前になりますが)引っ越しをしました。

現在は台湾人のエリック君というなかなかイカしたあんちゃんとアパートをシェアしています。

そしてさらにもう一人ルームメートが最近増えました(それ以前には彼のガールフレンドが住んでいたのですが…)。

 

2.今年はすごく寒いのです。

とうとう華氏で0度を切っていました。

ちなみに華氏の温度から32を引いて1.8で割ると摂氏の温度が出てきます。

そうです、外の気温がー20℃でした。

経験したことのない寒さです。

息を吸えば鼻の内側が凍りつき、息を吐けば吐息に含まれた水分が首に巻いたマフラーにあたって凍りつきます。

ちなみに髪が濡れたまま外に出るのは危険なのでやめました。

 

3.ついに車を購入

あまりの寒さにスーパーへ買い物行くのも命がけなんじゃないだろうかと思い詰め、ついに車を買ってしまいました。

人生ではじめて車のオーナーになることが出来ました。ちょっと大人になった気分です。

ちなみに買った車は HONDA のCRX si ('91)、そこそこ気に入ってます。

 

しかし先日の大雪で完全に埋没。

さらに除雪作業でさらに雪が車の回りにてんこもりにされて今現在、にっちもさっちもいかない状況です。

 

4.そしてふと気が付くと1月の終わりには誕生日が過ぎ去っていました。

平成15年の誕生日。

ん?どっかで見たことある言葉だな、と思ったら、

見つけました。

「平成15年の誕生日まで有効」

私の日本の運転免許証に書いてありました…。

 

一時帰国したら最初に更新に行かなければ、と思ってます。

 

それでは、今度こそ日本でお会いできるのを楽しみにしています。

失礼します。

 

高雄啓三